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巨大負熱膨張性マンガン窒化物による熱膨張制御

  • 工学部/工学研究科
  • 応用物理学専攻
  • 構造物性物理学

教授 竹中 康司[たけなか こうし]

シーズの概要

 大部分の材料は、温めると体積が大きくなる「熱膨張」を示します。これに対して、このマンガン窒化物は温めると逆に体積が小さくなります。これが「負熱膨張」です。負熱膨張を示す材料は、例えばシリコンの酸化物など、これまでにもいくつか知られていましたが、このマンガン窒化物はその度合いが従来材料の数倍から10倍も大きいという特徴を持ちます(図1および2)。
 熱膨張は、一般的な感覚からすれば、それほど顕著なものではありません。例えば、10 cmの鉄棒は温度1℃あたり1.2μm熱膨張するにすぎません。しかしながら、産業技術が高度に発達した現代では、これは決して放置できない、深刻な技術的障害となります。例えば、半導体デバイスの線幅(現世代で~20 nm)を考えれば、そのプロセスに桁違いの高精度が要求されることが理解できます。
 負熱膨張材料を使えば、この熱膨張を相殺することができます。しかしながら、従来の負熱膨張材料では、負熱膨張の度合いが小さく、大きな熱膨張を示す金属や樹脂の熱膨張を相殺するには力不足でした。このマンガン窒化物によってようやく樹脂はじめ様々な材料の熱膨張が抑制可能になりました。マンガン窒化物の巨大負熱膨張は、我々がこれまで持っていた熱膨張制御の概念を一新するものです。

この研究の新規性・独創性

 マンガン窒化物は、単に負熱膨張の度合いが大きいだけでなく、結晶方位依存性や熱履歴がないため、形態によらず安定して熱膨張抑制が可能です。このため、粉末として他材料に混ぜても、それ自体を焼結させても、繰り返される温度履歴に対して安定で、欠陥等の導入による機能劣化がありません。また、大きな剛性や、環境負荷の小さな元素だけで構成されていることなど、機能材料として優れた性質を持っています。これらの特長により、マンガン窒化物は金属や樹脂など、幅広い材料との複合化が可能で、これらの材料の熱膨張を、正から負まで、広い範囲で制御できます。また、従来材料に比べて少ない添加量で熱膨張を抑えることができるため、素材の特長(例えば金属の高い熱伝導度や樹脂の優れた加工性)を損なうことなく、熱膨張を制御できます。さらに、マンガン窒化物の熱膨張自体も、例えば窒素含有量を調整することにより、正から負まで、広い範囲で制御できます。これにより、単一の物質としてゼロ熱膨張を示す材料の作製も可能です。

産学連携を目指した応用研究

 高機能・低コストの実用熱膨張抑制剤Mn-Zn-Sn-Nの大規模合成技術を(株)高純度化学研究所と共同開発し、同社より量産品が販売されています。また樹脂メーカーと共同で、マンガン窒化物と熱可塑性樹脂との複合材料を開発しました。例えば、ポリアミドイミドの基剤に対し、開発された量産マンガン窒化物熱膨張抑制剤を重量比で75%(体積比で38%)配合した複合材料では、ポリアミドイミドの熱膨張を、室温を含む広い温度域で低減化することに成功し、とりわけ30~60℃での平均がα=5 ppm/℃と、シリコン並みの低膨張となっています(図3)。この複合材料は射出成形が可能で、既存の樹脂加工ラインにそのまま適用できます。基材の樹脂や熱膨張抑制剤の組成、樹脂と抑制剤の配合比を変えることで、熱膨張の大きさや動作温度域などの特性を自在に制御できます。樹脂の優れた加工性はそのままに、熱膨張を自在に制御できる、画期的なコンセプトの新材料です。

一言アピール

 私たちは現在、マンガン窒化物の薄膜化を試みており、この材料のより広い適用を目指しています。画期的な機能を持つマンガン窒化物の具体的な応用を目指した技術開発を共同で推進できればと思います。

キーワード

熱膨張制御、負熱膨張、複合材料、傾斜機能材料、薄膜、接合、温度補償、光学、加工、電子デバイス

保有技術

  • 熱膨張抑制剤(巨大負熱膨張材料)粉末ならびに焼結体の製造技術
  • 熱膨張抑制剤(巨大負熱膨張材料)と金属の放電プラズマ焼結による複合化技術
  • 熱膨張抑制剤(巨大負熱膨張材料)と樹脂の複合化技術
  • 熱膨張抑制剤(巨大負熱膨張材料)ならびに複合材料の物理特性(熱膨張、電気抵抗等)評価技術

主な機器

  • 放電プラズマ焼結装置、ホットプレス焼結炉、各種電気炉、電気抵抗測定計、レーザー熱膨張計、真空蒸着装置、SEM、原子間力顕微鏡、デジタル顕微鏡

主な特許

  • 本シーズの基本特許(JP特許第5099478号他US、CN、KR、CAで権利化)
  • 低膨張材料および低膨張材料の製造方法(JP 特許第5164168号)
  • 金属-セラミックス複合材料およびその製造方法(JP 特許第4332615号)

主な論文

  • 竹中康司, Material Stage 8(4) (2008) 1-3
  • 竹中康司, セラミックス 46(11) (2011) 960-964
  • 杉本典弘, 濱田大輔, 竹中康司, 日本金属学会誌 77(3) (2013) 75-79
  • 市古征義, 竹中康司, 日本金属学会誌 77(10) (2013) 415-418