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遅れとゆらぎの応用

  • 多元数理科学研究科

教授 大平 徹[おおひら とおる]

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シーズの概要

私の研究室では大きく分けて2つの研究テーマに取り組んでいます。
(1)ノイズと遅れの数理:ノイズや情報伝達の遅れは生体から金融市場などさまざまな対象に含まれている。これらの要素は複雑で、往々にして望ましくない挙動をシステムにもたらすことが多い。私は数理的な立場から、これらの要素を共に含むシステムの研究を過去20年ほど探求してきました。ランダムウォークに遅れを取り込んだ独自の数理手法を開発して、人間の重心制御やバランス制御、ネットワークの渋滞問題や外国為替市場のモデルなど、広く応用対象として、研究成果を発表してきております。
(2)追跡者が逃避者を追いかける、「追跡と逃避の問題」は数学では伝統的な問題ですが、おもに1対1の場合が考えられてきました。20世紀にはゲーム理論との融合があり、探索ゲーム理論なども構築され、さまざまな応用の方向が模索されています。私は、この問題を近年研究が盛んな、車、人や動物のように自ら動く「自己駆動粒子」の群れや集団の研究と融合して「集団追跡と逃避」の数理モデルを提案しました。集団ロボットや自動車の集団自走システムの制御などにも応用が聞く可能性があると考えております。

この研究の新規性・独創性

ノイズや遅れを含むシステムの研究は、それぞれの要素を独立に含む研究は長年されてきましたが、共に含むシステムの研究は、その複雑さからあまり研究が行なわれては来ませんでした。私は独自にランダムウォークに遅れを取り込んだ「遅れランダムウォーク」の数理アプローチを開拓して、より現実に近いノイズと遅れの両方の要素を含むシステムの研究を行ってきました。このアプローチにより、従来の理論ではとらえきれなかった、このようなシステムにおける統計的な振動の性質を明らかにできました。近年始めた「集団追跡と逃避」のテーマ提唱も、これまでは別の分野で研究をされたものを融合したもので、集団ロボットの制御や群れの特徴をしらべるなどの応用に資すると考えています。また、応用をしやすいように数理的には出来る限り単純なモデルを構築することを常に心がけています。単純なシステムにおいても、ノイズや遅れの効果が複雑な挙動を示したり、また、それらを制御したりする方向を探求することは、幅広い応用を考える上で重要であるとの方針です。

産学連携を目指した応用研究

産学連携につながりそうなトピックとしては、(1)「遅れを含む確率共鳴」と(2)「集団追跡と逃避」の研究に取り組んでいます。(1)についてはフィードバック制御において、適度なゆらぎを意図的に加えることが、制御性能を増加させるという研究です。人間の指先で倒立棒の制御においても反対の手で物を振るなどの揺らぎをくわえることで、倒立制御がより長い時間可能になる現象がよく見られます。このような可能性にヒントを得て、不安定な物理対象の制御などについては、適度な「ゆらぎ」の付加が有効に働く可能性が有ります。高齢者の転倒を防ぐためのバランス制御への応用など模索ができるかと考えています。(2)については、物理粒子とは異なる自らが動く粒子(自己駆動粒子)の集団の挙動と関係します。これらには、自動車、集団ロボットなども含まれます。単に集団としての性質を調べるだけでは無く、追跡や逃避の能力を加える事で、例えば自然な隊列の形成などに資する方向があるのではないかと考えています。ハンガリーの研究グループはこの要素を集団ロボットに加えることを考えているとのコンタクトがあり、様々な展開が考えられる可能性があります。

一言アピール

数理的な研究ではあるが、生物・生体、金融、物理など、理論と実験両面からの異分野の共同研究を積極的に行っている。全般的な研究スタイルについては下記の本を参照ください:「挑戦する科学者」(日本経済新聞社、2014年刊行)。

キーワード

遅れ、ゆらぎ、確率、共鳴、群集挙動、渋滞、自己駆動粒子、追跡と逃避

保有技術

  • 遅れとノイズを含むシステム全般に対する数理的な知見
  • 追跡と逃避の問題や、集団挙動の性質に関する数理的な知見

主な論文

  • 『ノイズと遅れの数理』 (共立出版、2006)   
  • 「集団追跡と逃避」、日本物理学会誌    Vol. 66, pp. 205-208, 2011.
  • 「遅れとノイズの周辺で」、数理科学     No. 467, pp. 79-83, May 2002.
  • 「ノイズと遅れの共鳴現象」、日本物理学会誌Vol. 55, pp. 360-363, 2000