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D-セリンの神経・腎疾患マーカーへの展開

  • 農学部/生命農学研究科
  • 応用分子生命科学専攻
  • 生体高分子学分野
  • 応用生命化学講座

教授 吉村 徹[よしむら とおる]

https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bmm/index.html

シーズの概要

本研究はD-セリン(D-Ser)をピルビン酸とアンモニアに分解する反応を触媒するD-セリンデヒドラターゼを用いて、D-Serの酵素定量法の構築を図るものである。D-Serは哺乳動物に著量存在し、脳内のNMDAレセプターのコアゴニストとして記憶や学習など脳の高次機能に重要な役割を果たしている。またその動態と統合失調症や筋萎縮性側索硬化症等、中枢神経系の疾患との間に相関関係があることが報告されている。一方、ヒト尿中には高濃度のD-Serが存在し、尿中全セリン量の30〜50%にも達するが、これは糸球体で濾過されたD-, L-Serのうち L-Serが近位尿細管で再吸収されるのに対し、D-Serの吸収効率が低いことに起因すると考えられる。急性腎炎のモデルマウスにおいては、尿中D-Ser/L-Ser濃度比の低下と血清中D-Ser/L-Ser濃度比の増加が起こることが報告されているが、これは腎障害によってL-Serの再吸収に障害生じたためと説明できる。このようにD-Ser濃度は神経疾患や腎障害のマーカーとなる可能性があり、その簡便かつ正確な測定法が望まれている。

この研究の新規性・独創性

D-Serは神経疾患や腎障害のマーカーとなる可能性があるが、その研究は進んでいない。その原因はD-Ser測定法にある。現在D-Serを始めとするD-アミノ酸のアッセイでは、アミノ酸を蛍光ジアステレオマーに誘導体化した後これをHPLCで分離定量する。HPLC法は高感度ではあるが検出に時間がかかる他、生体サンプルの場合にはD-Serよりも遥かに高濃度に存在するL-アミノ酸やアミンが多数共存するため、D-Serの正確な定量にはかなりの熟練を要する。我々が見出したD-セリンデヒドラターゼはD-Serに対する基質特異性が極めて高い。本定量法ではD-Serから生成するピルビン酸を、NADH存在下で乳酸脱水素酵素を用いて還元し、NADHの減少からD-Ser濃度を算出するか、ピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼで酸化し、その際生成するHをペルオキシダーゼと蛍光基質を用いて定量する。NADH/乳酸脱水素酵素との共役法では10 μMオーダーでの、ピルビン酸オキシダーゼ法では0.5μM~1 mMのオーダーでD-セリン定量が可能であり、マイクロタイタープレートを用いた多検体の同時定量も可能である。なおNADH/乳酸脱水素酵素共役法についてはコスモバイオ社よりキット化され発売されている。

産学連携を目指した応用研究

D-Serが神経疾患・腎疾患マーカーとして有効であることを示すとともに、その簡便で正確な酵素定量法を確立する。

一言アピール

アミノ酸代謝関連酵素の構造と機能、D−およびL−アミノ酸の代謝分別定量や酵素合成、特殊なペプチドの発酵生産などを研究しています。

キーワード

アミノ酸代謝関連酵素、ピリドキサルリン酸、D-アミノ酸、転写制御因子

保有技術

  • 酵素,タンパク質の組換え発現、精製、結晶化
  • 遺伝子クローニングと変異導入
  • D-、L-アミノ酸およびその関連化合物の分析

主な機器

  • HPLC、FPLC、CD、UV-vis、real-time PCR、DGGE、蛍光光度計、嫌気チャンバー、大型遠心分離機、超遠心分離機

主な特許

  • D-セリンデヒドラターゼ及びその利用 特許第5218949号 吉村徹、伊藤智和  国立大学法人名古屋大学

主な論文

  • Ito T. et al. (2015) PEGylated D-serine dehydratase as a D-serine reducing agent. J Pharm Biomed Anal. 16:34-39.
  • Okuda K. et al. (2015) Role of the aminotransferase domain in Bacillus subtilis GabR, a pyridoxal 5'-phosphate-dependent transcriptional regulator. Mol Microbiol. 95, 245-257.
  • Ito T. et al. (2013) Catalytic mechanism of serine racemase from Dictyostelium discoideum. Amino Acids. 44,1073-1084.
  • Ito T. et al. (2007) Enzymatic assay of D-serine using D-serine dehydratase from Saccharomyces cerevisiae. Anal Biochem. 371:167-712.