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特集

名大清酒「なごみ桜」~酵母の研究から製品化まで~

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  • 2017/01/24
  • 生命農学研究科(開発当時)
  • 加藤雅士教授

名古屋大学大学院生命農学研究科は、2009年より盛田株式会社(本社:愛知県名古屋市)及び、あいち産業科学技術総合センターとの産学官技術連携による共同研究を行い、2012年より名大清酒「なごみ桜」を醸造、毎年1,000本限定で販売しています。
「なごみ桜」は、名古屋大学農学部東研究棟前の八重桜より単離されたさくら酵母を発酵に用い、酒米には名古屋大学東郷フィールドで生産された米"若水"を用いる、オール名大産の日本酒です。「なごみ桜」開発秘話を伺うべく、その生みの親である加藤雅士教授(開発当時:名古屋大学生命農学研究科准教授/現在:名城大学農学部教授)を取材しました。

(聴き手:梅村綾子/NU Research)

初版:2016/01/20


「微生物をよりよく理解したい」 —その思いから、オール名大産の日本酒は生まれた。


NU Research:

日本酒造りは大切な伝統文化であり、それを研究していらっしゃることを羨ましく思うほどです。
加藤先生はどうして名大清酒「なごみ桜」を造ることにしたのでしょうか?


加藤教授:

私の専門は微生物学で、微生物の潜在能力を最大限に引き出し、人間の為に使っていくことに興味があります。「なごみ桜」の酵母造りも、微生物をよりよく理解したいという思いから取り掛かりました。


清酒用酵母について、少し専門的なことをご紹介しましょう。

清酒用酵母には、出芽酵母(Saccharomces cerevisiaeという微生物。日本酒、ワイン、パンなどの発酵に用いられる)が使われています。中でも、日本醸造協会が頒布している酵母を“きょうかい酵母”と呼び、そちらの酵母は購入することも可能です。が、酒類製造免許が必要です。


さて、きょうかい酵母には、表1の様に番号が振ってあって、それぞれに酵母の持つ特徴が異なってきます。私たちが舌を鳴らす酒の香りや味は、微生物の潜在能力そのものだということが見えてきますよね。



表1. きょうかい酵母の一例と、酵母の持つ特徴
(出典:「酵母菌の供給」日本醸造協会<2016年1月18日現在>)

番号 特徴
6号 発酵力が強く、香りはやや低くまろやか、淡麗な酒質に最適
7号 華やかな香りで広く吟醸用及び普通醸造用に適す

9号

短期もろみで華やかな香りと吟醸香が高い
10号 低温長期もろみで酸が少なく吟醸香が高い
11号 もろみが長期になっても切れが良く、アミノ酸が少ない
14号 酸少なく低温中期型もろみの経過をとり特定名称清酒に適す


ですが、私は疑問に思いました。酒蔵がこうした同じ酵母を使えば、同じような特徴をもつ酒しか生まれないのではないか、と。

そこで、東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室の中田久保(ひさやす)教授が初めて分離に成功したという、花からとれる「花酵母」のプロジェクトがヒントになりました。従来の醸造用酵母にない、オリジナルな香味を引き出すことができないか、と考えたのです。そうして、若い方でも女性でも飲みやすい酒の酵母を造って、近年減少傾向にある清酒の消費量の活性に貢献したい、と日本酒造りに挑むことにしました。


NU Research:

そこで、清酒用酵母に、名大の桜が使われたのですね。


加藤教授:

実に失敗ストーリーを重ねた後に、名大の八重桜より出芽酵母の取得に成功しました。


遡ると、2008年3月にあいち産業科学技術総合センターの北本則行博士(名大農学部卒業生)と、「名大ブランドを作ろう!」と日本酒開発について意気投合したことが発端です。

2008年4月には、名大の卒論生3名と約300株の酵母を試しに分離してみました。が、なかなか難しく、醸造に適する株が得られないまま1年が過ぎました。


2009年4月、再挑戦として、北本博士、同じくあいち産業科学技術総合センターの安田庄子博士(名大農学卒業生)と一緒に、名大の様々な種類の桜より第1回目のサンプリングを試みました。が、やはり不発。

5月、桜が散ってしまう頃、しかし気を落とす間もなくチャンスをくれたのが、名古屋大学農学部東研究棟前の八重桜でした。八重桜は、通常の桜より数週間~1か月遅咲きであるため、第2回目のサンプリングにチャンスを与えてくれました。その八重桜サンプルこそが、「なごみ桜」の出芽酵母Saccharomces cerevisiaeの取得へと導いてくれたのです。


名大農学部東研究棟前の八重桜(写真は、加藤教授より提供)

NU Research:

桜の酵母だなんて、美しいですね。
良い香りや味はどのように引き出されるのでしょうか?


加藤教授:

採取した酵母は、育種という技術によって良い香りを引き出します。

よく知られるところに、リンゴのような香り、バナナのような香りがありますが、リンゴ様香りはカプロン酸エチル、バナナ様の香りは酢酸イソアミルという、いずれも鎖長の短い脂肪酸に由来します(図1)。しかし、採取した酵母そのままからでは、これらの脂肪酸は多くは生成されません。そこで、近年発展した酵母の分子生物学を活用した育種技術を利用しました。



図1. カプロン酸エチル(リンゴ様香り)と酢酸イソアミル(バナナ様香り)の分子構造



例えば、カプロン酸エチルの大量生成においては、セルレニン(図2)という、微生物や動植物の脂肪酸生合成を阻害する天然の抗生物質を用います。



図2. セルレニンの分子構造。北里大学の大村智教授(2015年ノーベル生理学・医学賞)により発見された(詳細論文:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003647714)。



セルレニンは脂肪酸とよく似た形をしているため、脂肪酸合成酵素の邪魔をします。

セルレニンを含む培地で酵母を育てると、酵母は脂肪酸が合成できず生育できないのです。しかし中には、脂肪酸合成酵素のアミノ酸配列を変化させることで変異型となり、つまり、野生株とは長さの異なる脂肪酸を合成することで生き残ろうとする酵母もいます。


このことを利用して、私たちは育種を繰り返し、求める性質をもつ酵母に育てていきました。そうして、「なごみ桜」の酵母(「名大花酵母」と命名)が生まれたのです。


味に大きく寄与するのは、酵母に含まれる乳酸、リンゴ酸、クエン酸などの有機酸です。酵母によりそのバランスも様々なため、酵母を育種する上で、成分分析から酵母細胞内の有機酸生産量を知り、また代謝サイクルを考えて、コンセプトにあったお酒を造ることになります。


NU Research:

「なごみ桜」のコンセプトは何になりますか?


加藤教授:

「なごみ桜」は、

  • 低アルコール度数(12~13%)
  • 華やかな香り(カプロン酸エチル)
  • 甘酸っぱさ(米の甘みを残し、さわやかな酸味のリンゴ酸など多く含む)
  • 高いアミノ酸度

を特徴とし、若者、女性好みのお酒に仕上げました。


20098月より、盛田株式会社にて仕込み試験を開始し、その後、試作品の試飲を何度も重ねて方向性を決めていきました。そして、20103月に試作品は完成し、同月の卒業祝賀会で試飲会を行いました。初めて日本酒を口にする若者や女性に、特に好評価を頂きました。


卒業祝賀会で試飲会(写真は、加藤教授より提供)


NU Research:

そこから製品化へと展開していったのですね。


加藤教授:

実は、その祝賀会の後(2010年4月)、私は名城大学農学部へ異動になりました

「なごみ桜」は、というと、黒田俊一教授(当時:生命農学研究科/現在:大阪大学 産業科学研究所)、Andres Daniel Maturana准教授(生命農学研究科)に引き継いで頂けることになり、おかげでその後も順調に、名大農場で田植え、稲刈り、あいち産業科学技術総合センターで精米、そして盛田株式会社で仕込み、圧搾、充填、と準備を整え、2011年3月に第一弾を販売するに至りました。

しかし、販売開始直後、当時の商品名「さくらさく」を商標権の関係から改めなければならない事態となり、一旦「名大さくら酵母」という名前として、既製品のラベルの上からシールして販売しました。


2011年11月、名古屋大学農学部は「名古屋大学日本酒名称コンテスト」を実施しました。応募総数163件の中から選ばれた「なごみ桜」というネーミングで、2012年3月21日販売開始となったのです。


盛田(株)での仕込みの様子(2015年12月)。写真右は、加藤教授(右)と黒田教授(左)のツーショット


NU Research:

「なごみ桜」には、研究開発から製品化まで携わった沢山の方々の”一途な想い”がいっぱい詰まっているのだと思います。
最後に「なごみ桜」のお奨めの飲み方を教えてください。


加藤教授:

桜は、日本人にとって、おめでたい行事に欠かせないですよね。また、「なごみ桜」は、毎年3月下旬より発売となりますから、卒業式、修了式、入学式の祝いの酒としてはいかがでしょうか。新入生が未成年ということなら、入学式に保護者の方に買って頂いて、成人の日に飲むというのも良いかもしれません。熟成されると香りも色も濃くなりマイルドな味わいが楽しめますよ。


***お知らせ***

「なごみ桜」は今年も桜の開花の頃に、名古屋大学消費生活協同組合 北部購買店にて発売されます(予約販売は下記の日程で受け付けています)。名大清酒を是非お楽しみください。


「なごみ桜」概要

  • 商品名:なごみ桜
  • 容量・形態:500 ml・ガラス瓶
  • 希望小売価格:1,234円(税込)
  • 発売日:3月下旬
  • 発売予定数:限定1,000本
  • 製造者:盛田株式会社
  • 販売者:名古屋大学消費生活協同組合(名古屋市千種区不老町1)
  • 販売場所:名古屋大学消費生活協同組合 北部購買店


「なごみ桜」酒質

  • 日本酒度:-54
  • 酸度:4.0
  • アミノ酸度:2.9
  • アルコール度数:12~13度未満


2016年分は、おかげさまで完売致しました


2017年も予約販売を致します。

予約販売受付:2017年2月1日(水)から2月28日(火)まで

予約分のお渡し期間:2017年3月6日(月)から3月24日(金)まで

※一般予約販売も受け付けています。但し、受け取りは、名古屋大学消費生活協同組合 北部購買店でのお渡しのみとなります。ご了承ください。
※店頭(名古屋大学消費生活協同組合 北部購買店のみ)での販売は、3月9日(木)から開始し、無くなり次第終了致します。
※その他、詳細は申込用紙をご覧ください


【お申し込み方法】

下記添付の申込用紙にご入用本数ならびにご連絡先等を記入のうえ、メールまたは FAX でご注文ください。

申込用紙(2017年分):なごみ桜予約販売申込用紙.pdf



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