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ハイライト論文

緑膿菌をだまし討ち! 鉄分の供給遮断による新規緑膿菌増殖阻害法の開発に成功

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  • 2014/02/24

図1 緑膿菌のヘム鉄獲得システム

名古屋大学大学院理学研究科の渡辺芳人教授、荘司長三准教授、白瀧千夏子さん(博士課程3年)を中心とした研究グループは、緑膿菌の増殖を抑制する新規手法を開発しました。この研究成果は2014年2月7日付でAngewandte Chemie International Editionオンライン版に掲載されました。薬剤に対する抵抗が強く、様々な症状を引き起こす緑膿菌を抑制する新たなシステムとして広く注目され、同号のインサイドカバーを飾る予定です。

緑膿菌は私たちの身の回り、主に水回りに存在しています。健常者にはほとんど害のない細菌であるものの、長期入院患者など抵抗力が低下した人が感染すると様々な症状を引き起こし、最悪の場合死に至ります。20141月には大阪府高槻市の病院で院内感染が起き、11名が死亡しました。これまで緑膿菌対策として抗生物質が用いられてきましたが、緑膿菌は薬剤に強い耐性をもつため新たな薬を開発してもすぐに効力を失ってしまいます。そのため、薬に代わる緑膿菌抑制法の開発が待ち望まれていました。

図2 緑膿菌のヘム鉄獲得プロセス

図3 誤って偽HasAを取り込む受容体

荘司准教授の研究グループは、緑膿菌が鉄分を吸収して増殖するメカニズムに着目し、これを利用することを考えました。体内に存在する緑膿菌は不足した鉄分を得るため、ヘム鉄獲得タンパク質(HasA)を分泌します。HasAは赤血球中に存在するヘモグロビンに含まれるヘム鉄を奪い、図2のように栄養補給口である受容体(HasR)に運搬します。HasAはこれを繰り返し行い、緑膿菌の栄養補給を担います。研究グループはHasAにヘム鉄と中央構造が似た異なる合成分子鉄フタロシアニンをHasAに捕捉させ、偽のHasAを作りました。鉄フタロシアニンは自然界に存在しない、緑膿菌がこれまで出会ったことのない合成分子です。これを本物のHasAと取り換えたところ、HasRは本物と偽物を区別できずに偽のHasAを受け入れました。この時、偽物は合成分子をHasRに届けますが、何らかの理由で図3のように身動きが取れなくなり、HasRの補給口をふさいでしまいます。この結果、緑膿菌は栄養補給ができずに増殖できなくなりました。今回開発された手法は、抗生物質に頼らず緑膿菌を抑制することを可能にしました。現在名古屋大学大学院医学系研究科と協力し、応用が可能かを調べています。今後は緑膿菌に限らず様々な菌に対して、この兵糧攻めシステムを用いた抑制法が開発されることが期待されています。

荘司長三准教授

「こんなものを取り込まされたら緑膿菌は嫌がるだろうなあ」といった遊び心で、東海道新幹線の車体の青色に利用されている顔料(フタロシアニン)を、緑膿菌が分泌するヘム鉄獲得タンパク質のHasAに取り込ませた「偽のHasA」を作成してみました。緑膿菌は、フタロシアニン入りの「偽のHasA」と、ヘム鉄の入った「本物のHasA」を区別することができず、間違って「偽のHasA」と相互作用してしまった結果、増殖できなくなってしまうのが今回の研究成果です。蛋白質の低分子化合物の認識や蛋白質間相互作用では、こういった誤認識や誤作動といったことが頻繁に発生しています。どちらかと言えば負のイメージの誤認識や誤作動をうまく利用する反応や現象に興味(いたずら心)をもって研究を進めています。

今後の展望

鉄フタロシアニンを取り込んだ緑膿菌のHasAがどのように緑膿菌に作用して増殖を阻害しているのかの詳細を現在調べています。増殖阻害機構を明らかにするとともに、HasAに取り込ませる合成金属錯体に新たな細工を施すことで、増殖阻害だけでなく、作用すると殺菌に至るような反応システムを開発して、院内感染の病原菌として問題視されている多剤耐性緑膿菌の治療に役立てられれば、と考えています。

これから研究を始める人へ

連日、冬季オリンピックでの選手の活躍が伝えられ、感動している人、勇気づけられている人も多いと思います。スポーツだけでなく、研究で感動を与えられるようなヒーロー、ヒロインが多く日本から育ってくれることを願っています。研究もスポーツと同じで、頑張ったからといって必ずしも大成功するわけではなく、辛い思いをすることも多いですが、一生懸命「本気で」取り組んでいれば、確実に一歩ずつ前に進んで「成長している」のだと思います。





参考

研究成果情報

渡辺芳人教授情報

荘司長三准教授情報

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