脳の役割分担と方言
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- 2013/12/24
徳島大学 佐藤裕准教授、名古屋大学国際言語文化研究科 宇都木昭准教授を中心とした共同研究グループ1は、脳の言語処理システムが育った地域の方言によって変わることを発見しました。この研究成果は10月16日付でBrain and Languageに掲載されました。
脳は左半球と右半球に分かれており、単語や文などの言語情報(「a」や「i」など、個別の音の違い)を処理する際は左半球優位の反応が現れ、韻律情報(音の高低の違いなど)を処理する際は左右の反応に差異が現れないことが知られています。これまで言語習得経験が脳の言語処理に与える影響についての研究は、母国語と外国語との比較を中心に進められてきました。そのため、同一言語内の方言の違いが脳の言語処理に与える影響はわかっていませんでした。
研究グループは、方言が言語処理における脳の右半球・左半球の役割分担にどのような影響を与えるかを分析しました。首都圏で育った標準語(東京方言)話者14名と、東北地方南部方言話者13名(標準語と方言の両方を話すことができるバイリンガル)を対象として、実験参加者たちが様々な条件の言語音声を聞いた時の脳反応を調べました。その結果、音の高低によって意味が変わる2つの単語(飴と雨)を参加者に聞かせた場合、東京方言話者の脳は左半球に優位な反応を示す一方で、東北地方南部方言話者の脳は左右同程度の反応を示すことがわかりました。したがって、同一言語を話していても、生まれ育った地域の方言によって脳の役割分担が異なることがわかりました。この研究成果は脳と言語発達の関係解明に貢献すること、また教育分野や医療発達分野に応用されることが期待されています。
1. 小泉政利准教授 (東北大学)、山根直人研究員(理研)、馬塚れい子チームリーダー(理研)
宇都木昭准教授
宇都木昭准教授は、日本語や韓国語の音声学・言語学に興味を持って研究をされています。中学生のころからハングル文字に興味を持ち、韓国語を趣味として学んできました。学生時代に韓国へ交換留学し、博士を修めた後は韓国、エジンバラ、理化学研究所で日本語と韓国語の音声・音韻について研究してきました。様々な場所の様々な研究機関で、様々な分野の研究者とのコラボレーションを楽しみながら、国際的・学際的な研究に取り組んでいます。
今後の展望
上の研究は、私が理化学研究所にいたときに関わっていたものです。音声学を専門とする私が、心理言語学や脳科学を専門とする研究者と共同研究する中で生まれました。そのキーワードである「方言」は、実は社会言語学の重要なトピックでもあります。個人の内部に向かう心理言語学と個人の外へ向かう社会言語学を結びつけ、そこに音声学や脳科学の方法論を取り入れていったときに新たな方向が生み出せないか、模索する日々です。
これから研究を始める人へ
昔から外国語には苦手意識がありました。外国なんて遠い世界でした。初めて海外に行ったのは19歳のときの韓国で、はじめて英語圏に行ったのは29歳のときでした。子供の頃から自分は文系人間だと思っていたし、文系の学部に進んで文系の学問を専攻しました。そんな自分がこういう研究にかかわることになろうとは、思ってもみませんでした。何事も経験だと思います。意外な発見があるものです。