第4のナノカーボン:ワープド・ナノグラフェン
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- 2013/08/02
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹健一郎教授を中心とした研究チームは、全く新しい"うねる"炭素ナノ分子「ワープド・ナノグラフェン」の合成に世界で初めて成功しました。この研究成果は7月15日付でNature Chemistryオンライン版に掲載されました。
これまで炭素のみからなる高機能ナノ物質(ナノカーボン)として、球状のフラーレン、筒状のカーボンナノチューブ、平面のグラフェンが合成され、フラーレンとグラフェンの発見者はノーベル賞を受賞しました。
伊丹教授は2011年にナノグラフェンを精密に化学合成するための触媒を開発しました。今回、伊丹教授の研究チームはこの触媒による直接カップリング反応を用い、通常6角形の分子構造のみで構成され、平面構造を持つグラフェンに、7角形構造と5角形構造を組み合わせることで湾曲構造を持つワープド・ナノグラフェンの合成に成功しました。今回合成されたワープド・ナノグラフェンは、既存のナノカーボンに分類できない第4のナノカーボンと位置付けることができます。また湾曲した構造の特性上、ワープド・ナノグラフェンを構成する分子同士の間には微小な空間が存在します。このため有機溶媒に良く溶け、更なる反応に応用しやすい特性を持ち、様々な分野で利用される高いポテンシャルを秘めています。今回の研究は、全く新しいナノカーボンを生み出したことはもちろんですが、独自のカップリング反応の有効性を示したことでも非常に注目されています。今後は太陽電池、有機半導体、バイオイメージングなどに広く応用されることが期待されています。
伊丹健一郎教授
伊丹健一郎教授は新しい有用な物質を生み出すことを志して研究を始めました。いずれは「イタミン」という名の新物質を作り出し、人々の生活に役立てることを目指しています。現在、世界トップレベル研究拠点プログラムの一つであるトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の拠点長を務め、合成化学と生命科学の融合を通して世界を分子で変えていく研究をめざしています。
今後の展望を一言
これまで、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンなど、「新奇な構造」の登場がナノカーボンの新分野を切り拓いてきました。発見当初には全く想像できなかった機能や物性が後に明らかとなり、産業応用にまで結びついた歴史がナノカーボン分野にはあります。今回の研究で産声を上げた「ワープド・ナノグラフェン」にも、エレクトロニクス分野を中心とした様々な分野で活躍する高いポテンシャルがあると考えられます。
これから研究をする人へ一言
研究とは誰も足を踏み入れたことのない道を自らの力で切り拓くことです。高校や大学の授業では教科書に書いてあることを主に学びますが、研究とは新しい教科書をつくるようなものです。「世界で初めて」の何かを発見し、自分がかけがえのない存在になる瞬間を何度も味わえます。来れ、科学研究の世界へ!