外来種は「強い」わけではない

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  • 2013/10/07

名古屋大学博物館 西田佐知子准教授を中心とした研究グループは、繁殖干渉によって在来植物が近縁の外来種に置き換わるメカニズムを解明しました。この研究成果は2013920日にFunctional Ecologyオンライン速報版に掲載されました。

これまで外来種による在来種の減少は深刻な問題として注目されてきましたが、それは外来種が「強い」から在来種を駆逐する、という科学的に根拠のない要因や、資源競争などの要因が信じられてきました。しかし何をもって「強い」種であると定義するのかは不明であること、また資源をめぐる種間競争についても、ふつう種内競争のほうが他種間の競争よりも厳しいことを考えると、単独種の排他的分布を説明することはできません。これまで在来植物が近縁の外来種に置き換わる科学的根拠のあるメカニズムはわかっていませんでした。

西田准教授は、タンポポを用いてこのメカニズムの解明に挑みました。研究グループはセイヨウタンポポやその雑種によって追いやられている近畿地方の在来タンポポと、追いやられていない東海地方のタンポポにセイヨウタンポポの花粉を人工授粉し、在来タンポポがどのような反応を示すかを比較しました。その結果、近畿地方の在来タンポポのめしべはセイヨウタンポポの花粉管を間違って受け入れ、自分と同種の花粉と種子を作ることに失敗し(繁殖干渉)、子孫の数を減らして外来種に駆逐されることがわかりました。一方で、追いやられていないタンポポはセイヨウタンポポの花粉から出る花粉管をブロックし、同種の花粉管のみを受け付けて子孫を残すことがわかりました。したがって、在来植物が近縁の外来種に追いやられる現象は、繁殖干渉が決め手となっているといえるでしょう。

この研究成果は、今後生物の多様性の保全に貢献することが大いに期待されています。例えば、海外から新たな種が持ち込まれ、国内にその近縁種が存在する時、人工授粉実験をして近縁種間で繁殖干渉をするかどうかを調べます。在来種を脅かす繁殖干渉が起こる場合は、花が咲く時期に外来種の花のだけを切り取れば、在来種の子孫の減少を食い止めることができます。また、今回の研究成果は近縁種間で排他的な分布が起きるメカニズムを解明しました。そのため、近縁の生物は同じ場所にはほとんど存在しないというダーウィンの時代からの謎を解き明かす糸口となることも期待されています。

西田佐知子准教授

西田佐知子准教授は、これまでの外来種問題へのアプローチに疑問を持ち、今回の研究を始めました。繁殖干渉は外来種と在来種間で顕著に観察されますが、在来種同士でも起こりえます。外来種による繁殖干渉を研究することで、生物全体にとっても重要な現象を解明することを目指しています。西田准教授は、大学学部時代は歴史を専攻し、NHKで番組ディレクターを経験した後に植物の研究者になったというユニークな経歴の持ち主です。常に様々なことに疑問をもち、論理的に考える。文系と理系の壁を越えて植物生態解明のために日々研究を続ける、エネルギッシュな研究者です。

今後の展望

繁殖干渉という現象は、様々な生物の分布を決める大きな要因になっていると思われます。そこで今後は、外来種と在来種で起こっている繁殖干渉の事例をより多く見つけていきたいと思っています。また、在来種同士で起こっている繁殖干渉が現在の植物の分布にどのように関わっているかも明らかにしていきたいと考えています。いずれは生態学の教科書を書き換えることにつながるよう、がんばりたいです。

これから研究を始める人へ

偉そうなことを言っていますが、私自身はそんな独創的な人間ではありません。ただ、あまのじゃくなので、他の人と同じことはしないよう気をつけています。面白いテーマに飛びつきつつ、他の人とはちがう切り口を見つけ、難しいところは他の人を巻き込むことでなんとかやってきました。皆さんも、面白そうなことにアンテナを向けつつ、切り口、運、人の縁を大切にすると、いいことがあるかもしれませんよ。





参考

研究成果情報
西田佐知子准教授情報

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