年性骨髄単球性白血病の悪化をもたらす新規原因遺伝子変異を発見

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  • 2013/08/05

名古屋大学大学院医学系研究科小児科学の小島勢二教授、村松秀城助教を中心とした共同研究チームは、若年性骨髄単球性白血病(JMML)を引き起こすSETBP1とJAK3の変異を新たに発見し、SETBP1が成人の血液病である骨髄異形成症候群(MDS: 血液がんの前段階)から白血病への進行にも関わっていることを突き止めました。この研究成果は7月8日付でNature Geneticsオンライン版に掲載されました。

JMMLは乳幼児期に見られる白血病の一種であり、症例数が非常に少なく骨髄移植を受けても半数以上は再発する難病です。これまでの研究で、約80%の症例ではRAS経路に関連する遺伝子群の変異が原因であることが明らかにされていましたが、残りの約20%の症例では原因遺伝子が明らかにされていませんでした。

研究チームはJMML13症例を対象に、ヒトの全遺伝子配列のうちタンパク質をコードしている配列を次世代遺伝子解析装置ですべて解読し、変異を網羅的に解析しました。その結果、これまでに報告のない遺伝子変異(SETBP1JAK3)4例から検出されました。研究チームはさらに92例のJMML症例を同様に解析し、うち16例でもSETBP1JAK3変異を発見しました。このため、それら遺伝子変異が二次的にJMMLの発症に関わっていることが解明されました。またこれら遺伝子変異を有する症例は、有さない症例と比較して骨髄移植をしない場合の生存率が極めて低いこともわかりました。研究チームはさらにSETBP1が成人の血液病にも影響をもたらすのではないかと考え、骨髄異形成症候群20例を同様に解析しました。その結果、SETBP1MDSから白血病への進行に関わっていること、またこの遺伝子変異を持つ患者は有さない患者に比べ、予後が非常に悪いことが明らかになりました。今回の研究成果は、遺伝子解析によって予後を予測することで、適切な処置が可能になる点、また新たな治療法の開発に応用されうる点で非常に注目されており、今後の展開が期待されています。

小島勢二教授

小島勢二教授はこれまで小児の血液病治療に携わってきました。骨髄バンクのなかった25年前にその設立を目指して小児骨髄不全の患者団体設立に携わるなど、難病に苦しむ人々、そしてその家族を支えてきました。今回の研究は厚生労働省研究費補助金事業の一環として行われており、小島教授は全国から送られてくるJMMLの検体を解析し、診断しています。大学間で競合してサンプルを独占するのではなく、難治性疾患を大学ごとに担当を分け、互いに協力して研究を進めるという小島教授のプロジェクトは、難病研究のモデルケースとなっています。

今後の展望

新たに発見した原因遺伝子の変異を標的とした治療法を開発するのはもちろんですが、難病研究を持続的に行うため、大学間協力や、後継者を育てるシステムの構築にも携わっていきたいと考えています。また、研究成果を国としてどう生かすか、という重要課題にも取り組んでいきます。

これから研究をする人へ

医学の進歩を目の前の患者さんに還元するには、科学的な知識と情熱が必要です。日常の診療で生じる疑問を、そのままにしないで常に解決しようとする態度を身につけてください。







村松秀城助教

名古屋大学は以前から小児の遺伝性血液疾患の中央診断を行っており、村松秀城助教は大学院生時代にその役割を引き継ぎました。様々な検査を行う中で多くのDNA検体を眺め、これを使って病の原因を突き止めることができるのではないかと考え研究してきました。遺伝子診断と形態診断を組み合わせることで、世界に類を見ない精度で病理診断を行い、患者さんの予後改善につなげることをめざしています。

今後の展望

短期的には遺伝子解析を使った正確な診断を行い、的確な治療をすることを目標にしています。将来的には遺伝子診断を安価に、また持続的に患者さんに提供できるようなシステムを作っていきたいと考えています。

これから研究をする人へ

臨床研究における医学研究では、自らの目の前にいる一人の患者さんのために力を尽くすことが、同じ病気で苦しむ日本全国あるいは世界中の患者さんへの貢献に直結する可能性があります。大変にやりがいがある仕事だと思います。





参考

研究成果情報
村松秀城助教

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