分子と分子をつなぐ:環境に優しいカップリング反応の開発
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- 2013/08/02
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の伊丹健一郎教授を中心とした研究チームは、ノーベル賞反応として知られる「溝呂木-ヘック型カップリング反応」を大きく改良し、独自のニッケル触媒を用いて芳香族分子とアルケン分子のカップリングに成功しました。この研究成果は7月20日付でAngewandte Chemie International Editionオンライン版に掲載されました。
触媒は化学物質を合成する上で、2つの分子を効率よくつなげる重要な役割を果たします。ノーベル賞を2010年に受賞した溝呂木-ヘック型カップリング反応は強力な手法としてこれまで用いられてきましたが、触媒として使われるパラジウムが高価であること、また反応の過程で環境に有害な金属化合物やハロゲン化物を副産物として生み出すことが問題視され、環境低負荷型のカップリング反応が開発されることが待ち望まれていました。
伊丹教授は2011年に芳香族化合物とフェノール誘導体をつなげてビアリール化合物を安価に製造する次世代型クロスカップリング反応、また2012年に、芳香族化合物と芳香族エステルをつなげる次世代型クロスカップリング反応の開発に成功しており、カップリング反応の世界的な開発競争をリードしてきました。今回、伊丹教授はこれまで不可能とされてきたヘテロ芳香族分子とエノール誘導体や不飽和エステルをつなぐ次世代型カップリング反応の開発に、独自のニッケル触媒を用いることで成功しました。本触媒反応は、環境に負荷が少ないこと、これまで不可能とされてきた分子の組み合わせを可能にしたこと、触媒が安価であることから、従来法に比べて高い実用性を持ちます。今後はこのカップリング反応がトランスフォーマティブ生命分子研究所における動植物のシステムバイオロジー研究を加速させることが期待されています。また、開発されたニッケル触媒は近日中に関東化学株式会社より発売されるため、伊丹教授の研究成果が企業や大学での研究活動に大きな変革をもたらすことが予想されます。
伊丹健一郎教授
伊丹健一郎教授は新しい有用な物質を生み出すことを志して研究を始めました。いずれは「イタミン」という名の新物質を作り出し、人々の生活に役立てることを目指しています。現在、世界トップレベル研究拠点プログラムの一つであるトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の拠点長を務め、合成化学と生命科学の融合を通して世界を分子で変えていく研究をめざしています。
今後の展望を一言
今回のニッケル触媒反応によって、分子つなげ(合成化学)のオプションを飛躍的に広げることが可能になりました。この新反応を使って様々な有用物質が生み出されることを期待しています。
これから研究をする人へ一言
研究とは誰も足を踏み入れたことのない道を自らの力で切り拓くことです。高校や大学の授業では教科書に書いてあることを主に学びますが、研究とは新しい教科書をつくるようなものです。「世界で初めて」の何かを発見し、自分がかけがえのない存在になる瞬間を何度も味わえます。来れ、科学研究の世界へ!