プロトニクスの世界を広げる高分子構造:水素イオン交換膜の平面液晶構造が高イオン伝導性を実現
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- 2014/05/22
名古屋大学ベンチャービジネスラボラトリー(工学研究科)の永野修作准教授を中心とした研究グループは、燃料電池の心臓部である水素イオン(プロトン)交換膜が高イオン伝導性を獲得する液晶分子構造を解明しました。1 この研究成果は3月27日付でJournal of Materials Chemistry Aオンライン版に掲載されました。
環境にやさしい燃料電池は、化石燃料に代わる新たなエネルギー源として広く注目を集めています。より効率的にエネルギーを得られる燃料電池を低コストで作るため、燃料電池材料の一層の改良が求められています。特に燃料電池の心臓部である水素イオン交換膜は電流の源となる水素イオンの移動を担い、その性能は燃料電池の発電効率に大きく影響します。これまでイオン交換膜としてナフィオンと呼ばれる不規則構造をもつ高分子が一般的に用いられてきましたが、製造コストや製造工程の複雑さから新たな材料の登場が待たれていました。
永野准教授の研究グループは、これまで高分子材料の分子配向をそろえることでその光学特性や電導性などを向上させるアプローチを示してきました。今回同研究グループは、結晶性を持つ高分子であるポリイミドに注目し、水素イオン伝導性ポリイミドの塊と薄膜にそれぞれに電極を付けた時、薄膜における伝導性が非常に高いことを発見しました。さらに、永野准教授はこの現象が分子組織構造の並ぶ方向(配向)の差によるものではないかと考え、薄膜の構造を詳細に分析しました。その結果、ポリイミド薄膜は液晶性による規則的な平面構造を持ち、この構造が高い水素イオン伝導を可能にしていることが明らかになりました。この薄膜は従来燃料電池のイオン交換膜として用いられているナフィオンの5倍以上の水素イオン伝導性を示しており、これを燃料電池に応用できれば高い発電効率が期待できます。これまで高分子の配向構造の違いが伝導性を大きく変えるとは考えられてきませんでしたが、今回の研究は分子の形成するナノ構造と水素イオン輸送の明確な相関を示しました。この研究成果はより高性能な燃料電池の開発につながることはもちろん、様々なプロトニクス(水素イオンが移動することで動作する)デバイスの開発に貢献することが期待されています。
1. 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST) 長尾祐樹准教授らとの共同研究。日本学術振興会 最先端・次世代開発支援プログラムの助成を受け実施。
永野修作准教授
永野修作准教授は企業と大学で研鑚を積み、様々な分野の研究者と協力しながら研究を進めてきました。学士、修士課程を過ごした学習院大学で分野の別なく様々な研究者と議論した経験が、現在の学際的な研究につながっているそうです。現在名古屋大学ベンチャービジネスラボラトリー(工学研究科)で、高分子の配向構造を自在に制御する手法の開発とそれを活かしたデバイスの研究に取り組んでいます。
今後の展望
水素イオン伝導に分子が作る組織構造が重要であることが解ってきました。この組織構造の担い手は、液晶物質や高分子物質など生体を構成するソフトマテリアルです。生体内では、水素イオンの流れを制御するシステムがあるので、今回の成果は水素イオンを自在に操ることができる鍵となって、プロトニクスをエレクトロニクスのように大きく発展させるかもしれません。
これから研究を始める人へ
プロとしての専門性が研究には必要ですが、創造的な仕事には専門性にとらわれないアマチュアで自由な発想や感性が必要です。異分野の研究者との何気ない会話に、よく新しい発想やヒントを感じることを良く経験します。研究とは、未知なるものを探ることですので、新しく研究を始める皆さんには、ぜひ、アマチュアな新しい発想をプロ達に物怖じせずぶつけてください。
参考
研究成果情報
名古屋大学プレスリリース
Journal of Materials Chemistry A