空気と光で生きるシアノバクテリア:窒素固定と光合成を同時に行うメカニズムを解明

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  • 2014/06/17

名古屋大学大学院生命農学研究科の藤田祐一准教授、辻本良真博士研究員を中心とした研究グループは、シアノバクテリアの遺伝子解析により、窒素固定に必要な制御遺伝子を発見しました。この研究成果は4月21日付でPNASオンライン版に掲載されました。

窒素原子は植物の生育に必須の元素です。窒素は窒素分子(N2)として大気の約80%を占めていますが、多くの生物はこの窒素を利用することができず、窒素をアンモニア(NH3)に変換する窒素固定と呼ばれる反応が必要です。これまで窒素固定反応を工業的に行うため、大量の化石燃料を用いて窒素肥料が作られ、食用植物の増産が図られてきました。しかし、大量のエネルギー消費と環境問題への懸念から、化学肥料に頼らない窒素固定の実現が望まれてきました。自然界で自ら窒素固定を行う生物を調べ、そのメカニズムを解明・応用することができれば、工業的手法に頼らず植物の増産が可能になるかもしれません。真正細菌の一種であるシアノバクテリアの一部は窒素固定能を持ち、ニトロゲナーゼという酵素がこの反応を担っています。ニトロゲナーゼは酸素に弱い性質を持ちますが、窒素固定と光合成とを同時に行えるシアノバクテリアもいます。光合成で酸素を生み出しながら、酸素に弱いニトロゲナーゼを用いてどのように窒素固定を行っているのか、これまでそのメカニズムはよくわかっていませんでした。

藤田准教授の研究グループは、窒素固定ができるシアノバクテリアLeptolyngbya boryanaのゲノム中に、窒素固定に関わる多くの遺伝子が集まる領域を発見しました。この領域に存在する50の遺伝子のうちいくつかの遺伝子を選抜し、それらの遺伝子が欠損した変異体11株を培養・分析しました。その結果、これまで機能がわかっていなかったタンパク質が欠損した変異体を含む5株で窒素固定ができなくなりました。藤田准教授らがこのタンパク質を調べたところ、このタンパク質は周囲に酸素が少ないことを感知し、ニトロゲナーゼが働ける低酸素環境に限って窒素固定遺伝子群を活性化させる働きを持つことがわかりました。この研究成果を応用し、光合成生物へ窒素固定遺伝子群を導入すれば、化学肥料なしでも十分な生育が望めます。その際、今回機能が解明されたタンパク質(CnfRと名付けられました)の働きにより、窒素が不足している時にだけ窒素固定を行うようニトロゲナーゼを制御し、無駄なエネルギー消費を防ぐことができると考えられます。この研究成果は、今後食糧増産や環境問題に貢献することが期待されています。なお、この論文は、F1000prime(医学・生物学分野の論文から国際的に著名な研究者が推薦し、推薦コメントと併せて読むことができるオンラインサービス)に選ばれました。

藤田祐一准教授

藤田祐一准教授は幼いころから昆虫や植物が大好きでコオロギを飼ったり野菜作りに親しみました。高校生の時に、宇宙の成り立ちからDNAや地球外生命の可能性まで美しい映像でつづるドキュメンタリー「COSMOS」を見て大きなインパクトを受け、生物の研究をしたいと思ったそうです。自分が立てた仮説を自分の力で確認し、世界で自分しか知らないことを見つけていくプロセスに、研究の醍醐味を感じています。現在大学院生命農学研究科で窒素固定やクロロフィル生合成などについて研究しながら、環境問題の解決にも貢献しています。

今後の展望

ニトロゲナーゼについての多くの研究は、主に欧米で行われ、窒素固定に必要とされる遺伝子群はほぼ特定されてきました。しかし、植物へ窒素固定能を付与しようとする時、発現をどのように制御すればよいのかよくわかりませんでした。今回発見した転写制御タンパク質はその重要なピースに当たるものかもしれません。植物への窒素固定能の付与を、この転写制御タンパク質を利用して達成できればと考えて、研究を進めています。

これから研究を始める人へ

大学生のとき漫画研究会に所属し、出版社に原稿を持ち込むくらい漫画に熱中しました。おもしろいストーリーを考えること、分かりやすく内容を伝える工夫、効果的な絵の配置など、漫画を描くために培ったいろんなことが、研究の遂行(仮説を考える、実験を行う、図を作る、発表する、論文を書くなど)に、ずいぶん役に立っています。若い皆さん、今自分がおもしろいと思うことにしっかり熱中してください。そのことは将来別の形できっと役に立ちます。

辻本良真博士研究員

辻本良真博士研究員は、高校在学時に過酷な環境下で生きる微生物に興味を持ち、農学部に進学することを決めました。窒素固定は嫌気環境という極限環境で起きる反応の一つであり、高校生の時の興味が現在の研究につながっているそうです。自分の発想で研究を組み立て、実験することができる大学での研究にやりがいを感じています。

今後の展望 

私達の研究の最終目標は植物に窒素固定の能力を付与することですが、それまでにはクリアすべき課題がいくつもあります。CnfRについてもまだ役割が大まかに分かったというところですので、これから性質や機能の細かい点についての解析を行っていきます。

これから研究を始める人へ

研究は思い通りにならないことがよくあります。うまくいかないことも多いですが、逆に予想もしなかった面白い結果が得られ、新たな広がりを見せることもあります。そんなところが研究の醍醐味ではないでしょうか。何事もとにかくやってみることが重要だと思います。

参考

研究成果情報

名古屋大学プレスリリース 
科学技術振興機構JSTプレスリリース 
PNAS

藤田祐一准教授情報

名古屋大学教員データベース 
植物分子生理学研究室

辻本良真博士研究員情報

植物分子生理学研究室

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