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ハイライト論文

世界の飢餓を救え。 「WISHプロジェクト」、更に一歩前進へ

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  • 2015/03/17
  • 生物機能開発利用研究センター
  • 芦苅基行教授

名古屋大学生物機能開発利用研究センターの芦苅基行教授の研究グループは、イネの種子のサイズを制御する遺伝子を発見しました。遺伝子を発見したことで、従来の品種改良と同じ交配技術と分子マーカーにより、お米のサイズを制御することが出来るようになり、お米の生産性を上げることが出来るようになります。今回の研究成果は、我々の将来に来るべき食糧危機を回避するべく、イネ品種改良に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2015年1月6日発行のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America誌に掲載されました。→リンク:全学プレスリリース

強い意志を持って実践。 「お米」で世界の飢餓を解決する。

「日本のお米、美味しいですよね。」

日本の高品質お米ブランドが頭をよぎる。確かに美味しい。が、どうして美味しいのだろう? 名古屋大学生物機能開発利用研究センターの芦苅基行教授は、「それは育種家の努力の賜物だ」と話す。


野生のイネは、そのままではとても食べられない。しかし、イネが本来持っている遺伝子本来の多様性を見出し、お米作りに向かない気候や土地柄であっても栽培できるようにと気候や生産条件に合わせた品種改良がなされてきた。つまり、私たちは、品種改良により生まれたお米を食べているのである。


「アフリカでコメを生産したい。」

当時、高校生だった芦苅教授は、とあるテレビ番組の特集からアフリカの飢餓問題を知り、驚きとショックを隠せなかったという。

その後、「日本の農業で飢餓を救いたい」という強い意志のもと研究に携わるようになり、2010年には、Wonder rice Initiative for food Security and Health(WISH)プロジェクト(和訳:「食糧安定と健康のための奇跡のコメ計画」)を一人で立ち上げた。


応援もあったが、否定的な意見も多かった。しかし、芦苅教授の強い意志はWISHプロジェクトに勢いをつけ、2013年、国際稲研究所(International Rice Research Institute, IRRI)国際協力機構(Japan International Cooperation Agency, JICA)とともに稼働し出した。


遺伝子組み換えでなく、従来の日本の品種改良を方法とする。

今回のコメの収量増加に関わる遺伝子の発見で、世界の飢餓救済に向け、更に一歩前進を果たす。



芦苅教授、名古屋大学の東郷フィールドにて。



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「飢餓と栄養不良は、未だ世界最大の保健リスク」

国連World Food Programme(WFP)は発表する。1日に2万5千人もの人々が命を落とす現実。そのうち1万4千人は5歳以下の子ども達だという。また、現在、世界人口である約68億人は、2050年には90億人を超えると予想されている(年1.4%増)。これは、年1%にしかならない食糧増加率を超えており、このままでは食糧問題は益々深刻化してしまう。


名古屋大学生物機能開発利用研究センターの芦苅基行教授は、食糧問題解決の一つにコメの収量増加を目標に掲げ、研究を進める。これまでも品種改良により、イネの種子(コメ)の数を増やす遺伝子(Gn1a遺伝子)や、イネの枝の数を増やす遺伝子(WFP遺伝子)を発見してきた。(Ashikari, et al. Science (2005) 309:741-45; Miura et al. Nature Genetics (2010) 42: 545-9


そして研究グループは、今回、更なるコメの収量増加につなげるべく、コメの大きさを制御する遺伝子の同定に取り掛かった。


まず比較対象となったのは、品種によって様々なコメの形。

日本人が食べているお米は、ジャポニカイネと呼ばれ、コメの形が短く少し丸みを帯びているのが特徴だ。一方、東南アジアのインディカイネは細長い形をしている(図1)。



図1. ジャポニカイネの日本晴とインディカイネのカサラス(図は、説明資料として芦苅教授より提供



「コメの形を決める遺伝子があるから、形が違うんです」

芦苅教授率いる研究グループが、比較の対象としたコメは、ジャポニカイネの「日本晴」とインディカイネの「カサラス」。性質の異なる二つの個体におけるゲノム塩基配列の違いを比較することによって、イネの12本の染色体のうち、「カサラス」の第6染色体にコメのサイズを制御する遺伝子が見つかった(図2)。



図2. コメのサイズを制御する遺伝子(GW6a)が見つかった。(図は、説明資料として芦苅教授より提供)



このGW6a遺伝子を日本晴に導入し、過剰発現させるとコメのサイズが大きくなり、逆に、GW6a遺伝子を抑制するとコメのサイズが小さくなったのである(図3)。



図3. GW6a遺伝子を日本晴に過剰発現した種子と発現抑制した種子の比較(図は、説明資料として芦苅教授より提供)



遺伝子が特定できると、交配と分子マーカーによるモニタリングを組み合わせて、遺伝子を様々な品種に移動させることが可能となり、従来の品種改良の効率もアップできる。また、交配を通して遺伝子を移動させるため、できた品種は遺伝子組み換えではない。

今後、この種子のサイズをコントロールする遺伝子を様々な品種に移動することによって、収量増加が期待できるだろう。


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「アフリカでは、お米の需要が増えているんですよ。でも、輸入に頼っています。」

腹持ちの良いお米。だが、アフリカでは自国で栽培し食する、という文化が根付いているわけではない。また、アフリカの気候や生産条件に適当なコメがあるか、というとそうではないのだという。


食糧問題は、環境、嗜好、施設、肥料、収穫の方法、市場、教育、地域、・・などに複雑に左右されるため、数%でも収量を増加させることは、実に大変なこと。


「何事もチャレンジしなければ始まらない。」

世界の飢餓を救うため、芦苅教授は、コメの生産性向上の他、病気に強いイネや、地域に適したコメを改良することにも目を向け、挑み続ける。


今からでも遅くない。

―私たちも世界の食糧問題に目を向け、出来ることから協力そして実践していこう。

(梅村綾子)


研究者紹介

芦苅 基行(あしかり もとゆき)氏【名古屋大学 生物機能開発利用研究センター 教授


九州大学大学院農学研究科博士課程修了(博士学位取得)。農業生物資源研究所(博士研究員)、名古屋大学・生物分子応答研究センター助手、同・生物機能開発利用研究センター助教授を経て、
2007年より、名古屋大学・生物機能開発利用研究センター教授


***

強い意志を持って挑む研究者、芦苅氏。「チャレンジしなければ始まらない、と始めるものの、良いことばかりでもなく、悪いことも起こりますよ」と悩みも露わに話してくださった。
チャレンジする分悩みは尽きないのだろうが、克服しながらも意志固く突き進む芦苅氏には、「芦苅先生の様に実践的に国際協力に携わりたい」という学生のファンも多い。芦苅氏のご活動そのものが、学生らのお手本となっているのだと感じられた(梅)


情報リンク集

SXian Jun Song, Takeshi Kuroha, Madoka Ayano, Tomoyuki Furuta, Keisuke Nagai, Norio Komeda, Shuhei Segami, Kotaro Miura, Daisuke Ogawa, Takumi Kamura, Takamasa Suzuki, Tetsuya Higashiyama, Masanori Yamasaki, Hitoshi Mori, Yoshiaki Inukai, Jianzhong Wu, Hidemi Kitano, Hitoshi Sakakibara, Steven E. Jacobsen, and Motoyuki Ashikari.
Rare allele of a previously unidentified histone H4 acetyltransferase enhances grain weight, yield, and plant biomass in rice

PNAS 112: 76 (2014).
(First published on December 22, 2014; doi:10.1073/pnas.1421127112)

Motoyuki Ashikari, Hitoshi Sakakibara, Shaoyang Lin, Toshio Yamamoto, Tomonori Takashi, Asuka Nishimura, Enrique R. Angeles, Qian Qian, Hidemi Kitano, and Makoto Matsuoka.

Cytokinin Oxidase Regulates Rice Grain Production.
Science 309: 741 (2005).
(First published on June 23, 2005; doi: 10.1126/science.1113373)

Kotaro Miura, Mayuko Ikeda, Atsushi Matsubara, Xian-Jun Song, Midori Ito, Kenji Asano, Makoto Matsuoka, Hidemi Kitano & Motoyuki Ashikari
OsSPL14 promotes panicle branching and higher grain productivity in rice.
Nature Genetics 42: 545 (2010).
(First published on May 23, 2010; doi:10.1038/ng.592)

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