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ハイライト論文

医工連携で、安全確実な医療環境を実現

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  • 2015/03/30
  • COI-SIDC
  • 入江恵子客員准教授
  • 上野智永助教

この度、名古屋大学 未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センター(機構長松尾清一教授、センター長齋藤永宏教授)のプロジェクトにおいて、上野智永助教、入江恵子客員准教授は、名古屋共立病院脳神経外科小倉丈司医師と連携し、脳動脈瘤手術における手術シミュレーションツールの有用性を確認しました。この手術シミュレーションツールは、脳動脈瘤手術を必要とする患者の脳内の模擬血管を、3次元画像データから3Dプリンターによって再現することで作製されました。これにより、手術前に手術方法を確認することが可能となります。実際に執刀に当たった小倉医師は、本手法の有用性について、「術前シミュレーションは患者さんの治療を安全に行う上で大変役に立った」と述べています。
社会イノベーションデザイン学センターでは、社会課題の抽出とそれを解決するためのイノベーションツールの開発、及びその社会実装を目指しています。今回作製した模擬血管は、今後ベンチャー企業(名古屋ラピッドプロダクツ株式会社)と連携し、オンデマンドな供給体制を構築することで、平成27年末までに医療機関への本格普及を目指します。→リンク:全学プレスリリース

社会ニーズの本質を明らかにし、抽出。 未解決の社会問題に挑む。

便利な世の中になった。

とは言え、現状の継続では、高齢社会、エネルギー、環境問題など未解決の課題が益々山積みとなり、私たちの社会は破局的となるかもしれない。今こそ、何をすればいいかを考え、行動に移すべきだ。

 ― だが、どうすればいいのか。


「将来を予測し、目標となる社会の姿から現在を振り返る。」

名古屋大学 未来社会創造機構の社会イノベーションデザイン学センター(SIDC)は、既存の常識にとらわれず、自由で多様な価値観から社会のニーズを掘り起こし、その解決手段となる技術的および制度的イノベーションツール開発のもと、社会での実装・市場化を目指す。


2014年4月、ミニプロジェクトの本格稼働を開始。研究者らは、それぞれの目標に向けて、社会課題の本質を知り、社会ニーズの抽出から研究課題の切り口探しへと、プロジェクトを進める真っ只中にいる。


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「大きなイノベーションには、小さなイノベーションから。」

イノベーションの原動力となっているSIDCのミニプロジェクト。現在下記のミニプロジェクトが進行中である:

  • 共感工学ラボ:共感と助け合いで新しい価値を創造する
  • モビリティプロジェクト:活き活き社会を支えるパーソナルモビリティ
  • まちづくりプロジェクト:なめらかな街づくり
  • 医療プロジェクト:3Dプリンター活用による安全な医療環境実現
  • 対話型教育ツールプロジェクト:病院内の子ども達をわくわくさせる対話教育ツール

まずは課題抽出、そこから生まれたアイデアで、創り、実証し、そして社会で実践していくまでを一気通貫で進める。


「研究成果が出てから社会への実用化へ、30年後ではなく2~3年後を目指す。」

スピードある研究プロジェクトの課題抽出には、「つながり」が必要不可欠だ。今回は、「医療プロジェクト」で勢いよく取り組む、入江恵子客員准教授と上野智永助教を紹介したい。


入江客員准教授は、現役の脳神経外科医師。上野助教は、工学研究科で特に材料工学を専門とする。まさに医工連携プレーで進めるプロジェクトだが、この「つながり」が生まれたきっかけは、医療臨床現場での不便性から。


「安価でも消耗品でもいいから、なんとかならないか?」

入江客員准教授は、患者さんと向き合う中で、特に手術手技のトレーニングや、インフォームドコンセント(医療行為説明の上での患者さんからの同意)の点で、不便性を感じていた。


例えば、重篤なクモ膜下出血を引き起こしかねない脳動脈瘤破裂は、手術の際、開頭クリッピング術(瘤付近をクリップする)が行われるが、脳の血管は複雑な構造をしており、また患者さんによってその発生部位は異なる。


つまり、実際の手術現場において、医師の豊富な経験と正確な判断に頼らざるを得なくなる。また、患者さんに手術部位について説明する際も、分かりやすく表示しながら、に越したことはない。これらが、現役医師の入江客員准教授が感じる不便な現実なのだ。


「より安全な手術を行うために。」

ご自身でも各種展示会等に出向き、情報収集に励んだ入江客員准教授は、SIDCセンター長の齋藤永広教授に相談した。そこで、一先ずの可能性として、3Dプリンターを用いた患者さん個々の3Dモデルを作製することに着手したのである。


3Dモデルは、患者さんのコンピューター断層撮影法(CT)スキャンのデータから、3Dプリンターを用いて作る(図1)。実際、術前にこのテーラーメイドモデルを用いた医師らは、「手術をどう進めるか、また万一のトラブルシューティングまで、実際に触れながらイメージトレーニングできるので大変役に立った」と更なる期待を込める。



図1. 頭蓋骨と脳血管の3Dモデル。患者さんのCTスキャンのデータから作った3Dモデルを用いて、よりリアルにイメージトレーニングに役立てる。



「材料が、やっぱりなかなか良いものがない・・。」

一方で、材料開発を専門に取り組む上野助教は、「しかし、現場を知る医師が望むデザインのものを作るには、まだまだ材料の開発が必要だ」と話す。


3Dプリンターは、アメリカでの特許が切れて以降、誰でも安価に手軽に"もの"が作れる様になり、様々な研究プロジェクトが立ち上がっている。すなわち、3Dプリンターを使うこと自体は新しいことではない。


しかし、「ニーズがあるのに、現場を知らない」がために見逃されてきた材料開発がなされれば、それは3Dプリンターの世界で革命的となるはずだ。


「医工連携ゆえの、課題抽出ができた。」

上野助教は、材料開発の切り口が見えた、と語る。SIDCの目指す方向に、着実に勢いづけて進んでいる。



図2. 「名古屋ラピッドプロダクツ株式会社」より提供されている3Dモデルの一例(左:頭蓋骨、右:脳血管)



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入江客員准教授は、『素早く(ラピッド)製品(プロダクツ)を届けます』というコンセプトのもとに「名古屋ラピッドプロダクツ株式会社」を設立。医療目的に、脳内模擬血管の3Dモデルを提供している(図2)。


上野助教は、3Dプリンターで用いる材料の開発に向けて着手し、数年後の社会での実用化を目指す。


一つ新しいイノベーションを起こすには、「時に法律も変えなければならない」と話す両者だが、一つ一つの課題に丁寧に向き合い、それぞれの分野で革命的活動を起こしている真最中。実に、数年後が楽しみだ。


安全で確実な医療環境

― 医工連携で見えた課題が、実現へのカギとなる。

(梅村綾子)


研究者紹介

入江 恵子(いりえ けいこ)氏【名古屋大学 未来社会創造機構 客員准教授】

名古屋共立病院で脳神経外科医として活躍する現役医師。名古屋ラピッドプロダクツ株式会社の代表取締役を務める傍ら、2014年より、名古屋大学 未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センターで客員准教授を併任。


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名大のアカデミックな雰囲気に癒される、という入江氏。「名大の自由な精神が好き。そこで活躍する研究者たちのいろんな頭脳に触れられて、好奇心のままに頑張り続けられるエネルギーがもらえる」と話す。
現状問題に真摯に向き合う素敵な女性。一目惚れしてしまうほどかっこいい(梅)



上野 智永(うえの ともなが)氏【名古屋大学大学院 工学研究科 助教】

名古屋大学大学院 工学研究科 マテリアル理工学専攻 極限構造材料工学 助教。専門は、物理化学、非平衡系、反応拡散系、高分子材料。2014年より、名古屋大学 未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センターのプロトタイピング部門で、「医療」の他、「タイ(対話型教育ツール)」をテーマにミニプロジェクトを推進中。


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「ストレスを溜めないことに心掛けている」と話す上野氏。SIDCのミニプロジェクト以外にも数多のプロジェクトを同時にこなす。
取材中、上野氏の温和なお人柄の中に、オンとオフを上手く切り替えて仕事に集中する姿を垣間見ていた。見習いたい(梅)

情報リンク集

  • 名古屋大学 未来社会創造機構HP  http://www.coi.nagoya-u.ac.jp/
  • 名古屋ラピッドプロダクツ株式会社
       代表取締役:入江恵子
       事業内容:医療関連の各種シミュレータの作製
       所在地:名古屋市千種区不老町 
            名古屋大学グリーンビーグル材料研究施設 産学連携スペース115号室

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