第3回グローバルCOE国際シンポジウム「革新的治療法開発をめざしたガン研究の新たな展開」

  • 2012/01/30
名古屋大学グローバルCOE(以下、GCOE)拠点「機能分子医学への神経疾患・腫瘍の融合拠点」では、社会からの要請も強い神経疾患やガンの治療法確立に向け、若手研究者を育成しながら、その基礎になる研究を進めております。今回はGCOE拠点が実施したシンポジウムを特集いたします。

ガンは世界全体における死因の統計で上位に入るほどメジャーであり深刻な病気になっております。日本においても三大成人病の一つとされ、日本人全体の死因の多くを占める恐ろしい病気です。このため、ガンに関する研究は医学の分野において重要なテーマの一つとなっています。医学的にいえば、ガンとは悪性腫瘍のことを指します。腫瘍とは、体の中の細胞が勝手に増殖することを言います。悪性腫瘍、すなわち、ガンは、腫瘍のうち悪性で危険なものであり、他の正常な組織に侵入(浸潤といいます)したり、または、他の場所に転移したりして増殖するものを言います。このような増殖は無制限に栄養を使うため体を弱らせますし、また、正常な細胞・組織に侵入しその機能を失わせるため、ガン化が進行するとやがては死に至ってしまいます。ガン治療法の確立のためには、このガン細胞の増殖・浸潤がどのような物質が関わることで発生するのか、あるいは、抑制されるのかそのメカニズムを知る必要があります。

そこで、文部科学省の支援を受け、名古屋大学GCOE拠点「機能分子医学への神経疾患・腫瘍の融合拠点」では、この難題に挑む新進気鋭の若手研究者を育成し、その力を活用しながらガンのメカニズム解明と治療法の確立にむけた研究を進めております。第3回GCOE国際シンポジウム「革新的治療法開発をめざしたガン研究の新たな展開」はその活動の一環であり、GCOE拠点に所属する若手を中心とする研究者と国内外の一流の研究者の学術的交流を目的に、名古屋大学研究者を含む国内外の最先端を走る研究者によるガン関連研究の成果に関する講演とCOEの支援を受けている大学院生等の若手研究者らによるポスター発表が行われました。

シンポジウム冒頭では、名古屋大学大学院医学系研究科長でありGCOE拠点リーダーでもある祖父江元教授の挨拶(写真1)が行われました。その後、講演セッションが開催されました(写真2)。名古屋大学からは、古川鋼一教授、高橋雅英教授、橋本直純助教が講演を行いました。

医学系研究科古川鋼一教授は"Regulatory mechanisms of malignant phenotypes of human cancers by glycosphingolipids"というテーマで講演を行いました。古川教授の研究グループでは、ガングリオシドと呼ばれる炭水化物に属する物質群がヒトの癌を促進させるメカニズムに焦点をあてて研究を行っています。講演では、ガングリオシドの一種GD3がガン細胞の増殖にかかわるYesと呼ばれる物質を活性化し、がん細胞の接着を促すことでガン細胞が成長し浸潤していることを明らかにしたこと、さらに、ガングリオシドの一種であるGM1と呼ばれる糖脂質がルイス肺がんを抑制する効果を持っていることも明らかにしたことが発表されました。これらの研究は、ガンの抑制やガン治療法の開発に寄与すると期待されています。

医学系研究科高橋雅英教授は、"Roles of the Akt substrate Girdin in cancer cell migration and angiogenesis"で講演を行いました。生体内の信号のやり取りに関与するAktと呼ばれる物質は細胞増殖をはじめ様々な細胞活動に関与しています。これまでの研究でAktはがん細胞の増殖に密接に関連しているという事実は知られておりましたが、Aktがどのようにガン化を促すのか、そのメカニズムは完全には解明されていませんでした。高橋教授の研究グループでは、Aktにより活性化される Girdinというたんぱく質を発見しました。さらに、一部のガン細胞においてGirdinを抑制するとガン細胞の移動や湿潤浸潤を著しく抑制することを実験的に見出しました。本成果は、Girdinを標的とする新たなガン治療法の開発に大きく寄与することが期待されております。

医学系研究科橋本直純助教は"The inhibitory effect of mutation of phosphorylation sites in the PTEN C-terminal tail against malignant phenotypes ~Lung Cancers and tissue-microenvironment~"というテーマで講演を行いました。腫瘍微小環境と呼ばれるガン細胞の近傍でガン化に寄与する環境が存在しています。このような腫瘍微小環境とガンとの関係性を明らかにするために、特にガンを抑制する効果を持つといわれているPTENと呼ばれるタンパク質の状態に注目した研究が行われました。橋本助教、長谷川好規教授のグループでは、PTENの遺伝子改変を通じて、肺ガンの腫瘍微小環境においてPTENのリン酸化を抑えることが肺ガンの発現・細胞成長を抑制することを実験的に明らかにしました。PTENの制御による新たなガン治療法の確立に繋がることが期待されています。

シンポジウムでは、この他、グローバルCOEの支援を受けている大学院生を中心としたポスター発表(59題)も行われました(写真3)。講演、ポスターとも活発な質疑応答が行われ盛況のうちにシンポジウムは閉幕しました。

写真1:

写真 2. 講演の様子

写真 3. ポスター発表の様子

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