2014年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞 齊藤尚平助教 特別インタビュー

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  • 2014/08/06

名古屋大学物質科学国際研究センター 齊藤尚平助教は、環境変化に応じて青・緑・赤の3色に発光色を変える分子を開発し、この分子を添加した物質の状態を肉眼でリアルタイムに、非接触で観察することを可能にしました。材料開発やインフラの安全検査など様々な分野への応用が期待される研究で注目を集め、平成26年度 文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました。

"Material Imaging" ―物質の状態変化を可視化―

発光分子はUVライトから受け取ったエネルギーを放出する際に発光します。分子には様々な構造があり、柔軟で動きやすいものもあれば剛直で形が変わらないものもありますが、一般に、発光の効率が良いことから発光材料には剛直な構造をもつ分子が適していると考えられていました。しかし一方で、剛直な構造では分子の形が変わらないため、発光する色は1つの分子につき1色であるという制約がありました。


今回齊藤助教は従来の発想を打ち破り、中心部の柔軟な構造(8つの炭素の輪)の両端に剛直な構造(6つの炭素の輪の集合)が翼のように生えたハイブリッド発光分子を作り出しました。この分子は周囲の環境変化に応じてその形を変え、それに伴い青・緑・赤の3色に発光色を変化させることができます。固体中では動くことができずにV字型構造を取って青く発光しますが、液体中では自由に動くことができるため、V字型構造から平面構造へ変化して緑に光ります。そして結晶化するとV字型構造が多数重なって分子間で相互作用が起こり、赤く光ります。この光の変化は肉眼でとらえることができ、発光色の変化を観察することで分子を混ぜた物質の状態変化を知ることができます。

この分子を接着剤に添加し、UVライトを照射して時間を追って観察したところ、乾燥して固まったところは青く光り、そうでないところは緑に光りました。このように、この分子を応用することでこれまで確かめることのできなかった物質の状態変化を可視化し簡単に確認することが可能になりました。現在、工業用接着剤「エポキシ樹脂」への応用を試みており、材料開発への寄与が期待されています。

また、齊藤助教は環境変化だけではなく外部刺激により発光色が変わる分子の開発にも成功しました。これまですりつぶすと色が変わる分子は多数報告されていましたが、周囲からの圧力で発光色が変わる分子はほとんど知られていませんでした。齊藤助教が開発した新分子は通常は黄色に発光しますが、すりつぶすと緑色に、圧力をかけると赤色に発光します。この物質の発光色の変化を観察することで、物質にどのような性質の力が加わったかを判別することができます。このため将来的には衝撃センサーや応力センサーに応用されることが期待されています。

なぜ研究者の道を選ばれたのでしょうか。

"研究の道を意識していたわけではありませんが、中学生の頃の実験の授業はがんばっていました。当時通っていた私立武蔵中学校は自由な校風で知られ、カリキュラムも一般の中学校とは異なっていました。「自ら調べ自ら考える」という教育理念のもと、物理や化学の実験の宿題として自由考察が出されました。自分で調べて考えた分だけ高く評価してもらえることがとてもうれしく、徹夜で実験レポートを書いていました。その後京都大学に進学し、直接自分の手で物質に触れて実験できる化学に魅了され、化学の研究室を選びました。振り返ってみると当時所属していた研究室は人材の宝庫で、指導教官である大須賀篤弘先生だけでなく優秀な先輩たちからも多大な影響を受けました。修士1年生で作った新分子を自分の手で研究したいと思い、博士課程で研究を進めることを決めました。博士号取得後すぐに名古屋大学の山口茂弘教授にお声がけいただき、現在に至ります。名古屋大学着任以降は様々な分野の研究者と共同研究を行い、研究の幅を広めることを楽しんでいます。"

これから研究をする人へ

"最近無理のない範囲で仕事や勉強を済ませる人が多くなってきました。でも私はここぞという時にがむしゃらに、徹底的にやることが大切だと思っています。周りに流されずに自分の限界に挑み続けると、だんだん限界が上がっていくことに気づきます。また、困難に直面してそれを自力で乗り越えた経験は自信や自負につながります。そしてある程度自信がついたら、自分がいずれ研究のメインプレイヤーとなる自覚をもって社会にどのように貢献できるかを考えてください。"

参考

研究成果情報

分子技術と新機能創出 さきがけPRESTO
平成26年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞 受賞者一覧

研究者情報

名古屋大学理学研究科物質理学専攻化学系機能有機化学研究室
名古屋大学物質科学国際研究センター

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