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特集

NEDO Technology Commercialization Program 最優秀賞受賞 西谷智博特任講師 特別インタビュー

  • 2015/03/17
  • Photocathode Electron Soulチーム
  • 西谷智博特任講師(シンクロトロン光研究センター)

NEDO Technology Commercialization Program は国内の大学発起業家支援プログラムです。研究により培われた技術の商品化・サービス化を目指し、企業人のアドバイスや支援のもと、研究者らは自らのアイデアをプレゼンします。
名古屋大学Photocathode Electron Soulチーム<代表・西谷智博特任講師(シンクロトロン光研究センター)、鈴木孝征助教(知財・技術移転グループ)、岡田育夫特任教授(シンクロトロン光研究センター)>は「高性能電子ビーム生成装置と素子の販売事業」をアイデアに、2015年2月20日の最終選考においてNEDO Technology Commercialization Program最優秀賞を受賞しました。
既存電子源技術の性能を遥かに上回る「半導体フォトカソード電子ビーム源」の技術提供で、私たちの身の周りにある電子ビームを用いた機器を刷新することを目指す、西谷智博特任講師を取材しました。→リンク:全学受賞者情報研究大学強化促進事業ニュース

(聴き手:梅村綾子/NU Research)


既存電子源技術の性能を遥かに上回る「半導体フォトカソード電子ビーム源」の技術提供で、私たちの身の周りにある電子ビームを用いた機器を刷新することを目指す。


**今回の受賞について**


半導体フォトカソード電子ビーム源とは、どのようなものですか?

©ILC, Rendered and Authored by Rey.Hori.

半導体を用いたフォトカソードは、電子を純粋な素粒子(スピン偏極電子)として取り出せることから、宇宙創成の謎に迫るという巨大な素粒子実験装置:高エネルギー加速器(動画参照・上)で主に使われてきました。このような高エネルギー加速器用の半導体フォトカソード開発において、名古屋大学理学部は、90年代から2000年初頭にかけ、キーテクノロジーとなるスピン偏極性能の高度化で世界をリードしてきました。

電子ビーム源とは、大雑把に言って、電子発生素子と電子ビーム発生装置(電子銃)で構成されます。電子発生素子(図1)には、主に熱型(熱陰極)と電界放出型(FE)などが産業技術に広く使われています。一方で、光電効果型、つまりフォトカソード(図2)では、素子部に光を照射し、光のエネルギーにより電子を発生させます。そのため、スピン偏極電子を発生できるだけでなく、照射する光により強さ(電流)や形を自在に変えられ、更にはホースから出る水ではなくマシンガンのようなパルス電子ビームの発生もできてしまう多彩な電子ビーム源です。


図1.産業に幅広く使用される電子源素子:熱電子(上)、電界放出(下)による電子放出。(図は、説明資料として西谷特任講師より提供


図2.フォトカソード電子ビーム:光を電子源素子に照射する(光電効果)ことで電子ビームを引き出す。(図は、説明資料として西谷特任講師より提供


このフォトカソード電子ビームはどのように使われるのでしょうか?

電子ビーム源は、産業技術になくてはならない技術です。代表的なもので言うと、電子ビームで極小の物や構造を観る電子顕微鏡、物質を繋げる溶接や加工するリソグラフィー、近年では金属3Dプリンターなどへも応用されています。

電子顕微鏡では、今や原子サイズ(0.5Å)が観測できるようになっております。しかしながら、電子顕微鏡は速い動画のような観察に対する技術が十分ではありません。
次世代の電子顕微鏡には、小さな物が見えることに加えて、それが動いたり反応したりする様を見るといった技術のパラダイムシフト(考え方の劇的変化)が求められています。私たちは、電子ビーム源の技術革新によりそのようなパラダイムシフトが実現できると提案しています。


産業界で使われる日も近いのですね。

私は研究者としてこの技術の提供はできますが、それだけではこの技術の実用化には不十分です。この技術を提供する先の技術も同様に多くのノウハウがあるため、その実用化には、技術の応用先の製造企業などの技術者、研究者との協力・連携が必要不可欠です。

私は幸運にも様々な企業の方々と交流や議論の機会を沢山頂いております。そのような方々の知見や経験を通して、はっとさせられる解決方法やこれまでに無かったアイデアが生まれることが多々あります。私が進めてきた技術の実用化の理想は、そのような方々と開発の議論や苦労を重ねて、開発を成功させ、共に想像してきた未来を実現することです。

想像する未来像は既に沢山あり、それを超える未来というのも十分ありますが、今から3~5年後が目処です。楽しみにしていてください。私が一番楽しみにしているんですけどね。



**これまでのご研究について**


これまでのご研究において、喜びや苦労を聴かせてください。

苦労が99%、苦しいことしかないです(笑)。電子源という分野自体が大きくはないのですが、輪をかけて「半導体フォトカソード」という分野は極めてマイナーなんです。ほとんど仲間がいない、議論相手がいない、いろんな学会、国際会議に出てもチンプンカンプンとよく言われます。また、先ほど言ったように名古屋大学は世界的にも半導体フォトカソード技術開発を先導してまいりましたが、残念にも私の指導教官だったこの分野の先駆者であった中西彊先生も亡くなられたことから、求心力が日本からなくなりつつあるように感じます。

しかしながら、私には幸運な出会いがありました。それは、日立製作所フェローで、理研(理化学研究所)主任を兼務されていた外村彰博士との出会いです。外村さんは、私が原研(日本原子力研究開発機構)所属時に初めてお会いし、わざわざ原研まで私の装置を見学に来て頂き、その後、私を理化学研究所に呼んでくださった方です。

ところが、外村さんのお誘い頂いたにも関らず、私は外村グループには行きませんでした。当時は任期付きの研究者でしたので、限られた間に何かをしなければと焦っておりました。使われていない部品を拾ってきては自身の装置を開発していた経験から、そのような部品がゴロゴロある理研の和光に行くため、外村さんの期待を裏切ってしまったのです。それでも外村さんは、理研で開発した私の電子銃装置(電子ビームを発生させる機械)を見学に来て頂き、「ずいぶん大きいねえ。もっと小さくならないの?」と目を掛けてくださいました。

外村さんに私の研究開発を報告できる機会はあまり多くはありませんでしたが、その少ない機会そのものが喜びでした。外村さんとの出会い自体は、私の人生で貴重な経験となってます。


電子銃の大きさは、どのくらいだったのでしょうか?

半導体フォトカソードは、ビッグバンを作るための高エネルギー加速器の分野で発展してきました。その長さは数十kmに達する巨大装置です。電子銃装置はその一部ですが、電子銃にしても加速器用となると大学生一人暮らしの部屋以上の大きさになります。

一方で、電子顕微鏡など、電子ビームを使用する産業技術に用いる装置は、小さい物でデスクトップサイズ、大きな物でも百平米(3LDK4人家族用マンション)くらいです。デスクトップサイズの装置の上に大学生の部屋サイズの電子銃装置がついた装置なんてありえないですよね。

私は、外村さんに「でも電子顕微鏡に載せられるサイズは可能です」と必死に説明するも、外村さんは「でもこれは大きいよね」と。外村さんの意図は、"ならやってみせろ"と言っておられるのだと解釈し、そこで、私は大学生が「住める」大きさ(図3)から、先ずは人が「持てる」大きさ(図4)の開発をしようと決めました。ところが、「持てる」大きさの電子銃"コンパクト半導体フォトカソード電子銃"が完成する半年前に外村さんは亡くなられ、そのご意見を改めて聞く機会は永遠になくなりました。

もっと早く完成させていればと悔やまれるのですが、この電子銃が完成したことで、電子顕微鏡を初めとする多くの産業利用先の企業の方々が沢山見学しにきてくれることになりました。この電子銃により半導体フォトカソードが産業利用に向かう扉が開かれたことになりましたが、これこそが外村さんの意図の本質ではなかったのだろうかと考えております。


図3.ネジ一つから設計して作ったという、「住める」大きさの電子銃と「持てる」大きさの電子銃(図は、説明資料として西谷特任講師より提供)


図4.「持てる」大きさの電子銃と西谷特任講師(図は、説明資料として西谷特任講師より提供)


半導体においてはどんな発展を成し遂げられたのでしょうか?

半導体フォトカソード電子ビーム源の電子銃装置の問題とは別に電子発生素子である半導体フォトカソードに最大の弱点がありました。それは、半導体フォトカソードに用いる機能性表面(注釈)が極めて脆いということです。

この問題に対して私は原研時代から半導体そのものの改良により表面の機能性の耐久化が実現すると提案し、その研究・開発に取り組んできました。そして、理研時代に、その提案に対して青色LEDに用いられるガリウムナイトライド半導体(窒化物系半導体、GaN系半導体)が適していることを見出し、名古屋大学に異動した後、天野浩先生にGaN系半導体を電子源として使いたいと提案しました。

天野先生は興味を示してくださり、2013年から天野研究室とGaN系半導体フォトカソードの共同開発が始まりました。昨年の2014年までに従来比20倍という遥かに高耐久な半導体の開発に成功しました。これにより半導体フォトカソードを幅広く電子源として産業利用する十分な耐久性のある半導体が実現したことになりました(図5)。

注釈)半導体フォトカソードにおける機能性表面である負電子親和力性のある表面は、超高真空下で清浄化した半導体表面へのセシウムの蒸着により得られることが半世紀ほど前から知られている。半導体表面に形成されたセシウム層は原子層の厚さで構成されることから極めて脆いことが明らかになっている。


図5.天野研究室と作製した半導体(図は、説明資料として西谷特任講師より提供)


今後のご研究は、どのように展開されていくのでしょうか?

私の電子ビーム源の研究・開発は10年以上かけて産業利用へと、今やっとスタートラインに立ったようなものです。しかしながら今後は、より研究・開発を加速して、これまでになかった微細構造の動画撮像が可能な電子顕微鏡や、より身近なものでは、スマートフォンから自動車、発電所や航空機に使用されるタービンブレードに至るまでの製造技術などへの実用の夢を膨らませております。

同時に、電子ビーム源は、そのような応用に見合う性能を持たせるよう、より高度化させる準備を始めております。そして、加速器分野で育った半導体フォトカソードは、様々な産業利用からの高度な要求を乗り越え、さらに一回り大きく成長(性能向上)した後に、再び宇宙探索の謎に迫る電子源として貢献するようになると考えております。


将来の「イノベーション」に思うことは、どんなことですか?

イノベーションは、関係なさそうな考え方を組合せたり(注釈1)、経済活動でそれまでと違った仕組みで新たに作る(注釈2)ため、始めは理解されないことが当たり前なんです。"なんだかわからないがすごい"と始めに気づく人々がイノベーションの種を作り出しているんだと思います。外村さんや天野先生も専門外であっても私を気に留めて頂きました。

また今回、NEDO TCPで最優秀賞を頂いた事業案では、宇宙創成の謎に迫る実験に使用されてきたハイテク道具が、経済活動に結びつく機会を得て、優れた事業モデルを介して作り上げた結果、事業全体の"すごみ"に繋がったのだと思います。更に、私だけでなく、大企業に長年技術者として勤められ幅広いネットワークを持つ岡田育夫先生、バイオ分野の研究者の側面と産学連携・知財の経験を持つ鈴木孝征先生といったこれまで関係なさそうなメンバーが、これまでのそれぞれの経験とは違った結びつき方をした結果とも言えるかもしれません。

"なんだかわからないがすごい"と始めに気づく人々がイノベーションの種を作り、関係なさそうな連中が集まって思い切った行動することが、その種を育てるのかもしれません。我々まだイノベーションは起こせてませんけど(笑)。

注釈1)米国の経営学者クレイトン・クリステンセンの定義:一見関係なさそうな事柄を結びつける思考
注釈2) オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーターの定義:経済活動において、手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新たに結合する



**西谷特任講師からのメッセージ**


最後に、若者へメッセージをお願いします。

若い人へ、などと言うと自分が老け込んでしまいそうですので、自分より若い人を含む同じような立場にある人に"私自身、若輩者ですが"という前置きで言います。

「若手研究者のロールモデルになりたい」と思っています。これは実は、NEDO TCPメンバーの鈴木先生のお言葉です。彼は、農学博士でありながらも、研究以外の道でご活躍されています。日本は欧米とは異なり、まだまだ博士の道は研究という考え方がありますが、視野を広げて、自分の積み重ねてきたキャリアや培ってきたスキルをいろんなところで活かしていく手本になれたら嬉しいですね。

一方で、私は研究者です。これまでに理研での経験を通して、産業の発展には基礎研究と応用研究が同時に進められるべきだと考えるようになりました。昨今のポスドク問題では、定職に就けず流動的に職を転々とするという側面を暗く考えておりましたが、自身の研究や培ってきた技術に自信があるなら、そのような経験はかえって視野や考え方の幅が広がり、世界を広げられるチャンスとなるはずです。―研究者として研究とそれに伴う応用技術に取組み、世の中に発信していく、そしてそれが世の中に認められる、認められるとその研究・開発が社会で立場を得る―そうすると研究者の雇用も拡大できます。

自分の研究は何の役に立つのだろうか、と不安に思うことがあると思うんですが、馬鹿げているくらいの想像してみて、できるかもしれないと思ったら、それを色んな所で色んな人に思いを込めてしつこく訴えれば、世の中の役に立ち広がって行く未来が見え始めるものです。皆さんに、視野を広げる活動をどんどんしていってもらいたいと思っています。

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