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特集

第35回(2015年)猿橋賞受賞 鳥居啓子教授 特別インタビュー

  • 2015/08/11
  • WPI-ITbM
  • 鳥居啓子教授

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の主任研究者 鳥居啓子教授が、自然科学の分野で顕著な研究業績を収めた女性科学者として、第35回猿橋賞を受賞しました。
猿橋賞を贈る「女性研究者に明るい未来をの会」は、「自然科学の研究分野では、男子の力が圧倒的に強い。また、家庭をもった女性自然科学者に対する研究上の障害も大きい」という現状課題に触れながら、女性科学者のもつ高い潜在能力に期待し、励ますことで、日本の自然科学発展に貢献できるよう支援を行っています〔創立の趣旨(1980年10月)より〕。
この度の受賞研究題目「植物の細胞間コミュニケーションと気孔の発生メカニズムの研究」で更なる勢いをつける国際的女性科学者 ―そして母としてもご活躍― の鳥居啓子教授を取材しました。

(聴き手:梅村綾子/NU Research)


国際的植物学者として、のみならず、母としてのキャリアも輝く鳥居教授。「両立」をこなしながら、更なる研究成果に期待を集める。


**国際的女性研究者として**


鳥居教授は、ワシントン大学で研究室を主宰されていらっしゃいますが、ITbMで海外主任研究者として研究グループを主宰されるようになった「きっかけ」はどんなことだったのでしょうか?

WPI-ITbMの副拠点長、東山哲也教授にお声を掛けて頂きました。東山先生との出会いも、私にとって、素晴らしいご縁からなのです。

2002年ごろ、私がアメリカで研究者として独立したばかりのころ、私は研究テーマを立ち上げたいにも研究費がなかなか取れず、路頭に迷っておりました。しかし、幸運なことに、そんな私を日本から応援してくださる恩師に恵まれました。自然科学研究機構理事(当時:京都大学理学研究科教授)の岡田清孝先生です。

岡田先生は、科学技術推進機構の戦略的創造研究推進事業(JST-CREST)で研究を始めるにあたり、教え子でもない私を研究チームへと誘ってくださいました。実はこの時、当時東京大学理学研究科で助手をされていた東山先生も、同じようにして岡田先生のCREST研究チームへ誘われたのだそうです。「ユニークな研究をしているから」と。

そのおかげで、研究に芽がでて今につながり、ITbMの海外主任研究者として研究グループを主宰させて頂いてます。


アメリカと日本での研究の両立はどのように推進されているのでしょうか?

ワシントン大学と名古屋大学WPI-ITbMでは、それぞれの目標に向けて研究を進めています。ITbMにおいては、ITbMでしかできないこと、つまり、生物学と化学の融合型研究を展開しています。

私は普段はアメリカに居ますが、日本の研究グループとは、ほぼ毎週“ビデオチャット”で会議をしています。とは言え、両研究室が上手く回るのは、ITbMの私のグループで、共に研究室を主宰するCo-PIの打田直行特任准教授のおかげなのです。

私の興味と打田先生の興味を同時推進しながら、ユニークなテーマを設定し研究に取り組んでいます。打田准教授とも、彼が前任のポストにあった際、ふとした機会から植物の生長を制御するペプチドホルモンの共同研究を行なうことになりました。そのご縁で今の鳥居—打田研究室があります。


ご研究の取り組みとして、鳥居教授が心掛けていらっしゃることはどのようなことでしょうか?

私の恩師の岡田先生にありがたく思うばかりなのですが、成功は、ひとりでは成し遂げられません。誰かに目を掛けてもらい、チャンスを与えてもらって初めて土俵に立てるもの、ではないかと思います。

特に、若手研究者が成功していくには、誰かに目を掛けて、声を掛けてもらわないことには、なかなか独立そして成功していくことなど難しいと思っています。私は非常に運が良かったと思いますが、私が岡田先生にそうして頂いた様に、私もそのような機会が与えられる際には、“コネ”とか“派閥”などとは関係なく、若者に声を掛けて将来輝くであろう原石を見つけていけたら、と思っています。

また、学生やポスドク達との縁に恵まれなければ、独立したての小さな研究室で実績を上げることは不可能です。実際、CRESTの研究で雇ったポスドクの方が、葉の表面に存在する気孔の変異体を偶然見つけるに至りました。それからというもの、私の研究の方向性がかなり定まってきて、目立った成果を出すことができるようになってきたと同時に、注目を浴びるようになってきました。グループの皆と、楽しんで研究に勤しんでいます。



**ご研究内容について**


鳥居教授のご研究の、一大テーマである「気孔」の魅力について教えてください。

植物の葉の表面に存在する気孔は、私たちの生活に大事に関わっています:

6CO2 + 12H2O → C6H12O6 + 6O2 + 6H2O

気孔の働きを追ってみると、陸上植物は大気中の二酸化炭素(CO2)を気孔から吸い込み、そして土壌から吸収した水(H2O)を用いて、光合成により糖質(ブドウ糖:C6H12O6)が合成されていきます。いわゆる再生エネルギーで注目されている資源、バイオマスです。そして、このとき作られる酸素(O2)が大気中に排出されて、私たちの呼吸できる酸素の量が保たれています。また、暑い真夏日に私たちが汗をかくように、植物も気孔の開口部から水蒸気(H2O)を蒸散し、葉の表面温度を下げています。すると、空気が乾燥して植物がしおれないように、と気孔が閉じます。気孔の開閉はこのように繰り返され、計算上、年に2回くらい地球全体の空気を入れ替えているとも言われているのです。(ちなみに、ITbMの木下俊則教授は気孔の開閉メカニズムを研究されています。)


気孔はどのように発生するのでしょうか?

進化的には4億年前の根・葉・花の無い最初の維管束植物にも、茎の表面に気孔が存在していたことが見つかっています。現存するコケ(スギゴケ)にも僅かですが気孔があります。気孔は、ずっと昔から存在し、その機能を発揮していたことを思うと非常に興味深いです。

気孔の「形成過程」としては、次のように観察されてきました(図1):


図1.気孔の形成過程(図:Pillitteri, et al. Nature (2007) 445: 501-5. Copyright © 2015, Rights Managed by Nature Publishing Group


双子葉植物の未分化な葉の表面では、いわば気孔の幹細胞であるメリステモイド細胞が非対称分裂を行い、気孔細胞系列を形成します。その後、メリステモイド細胞は孔辺細胞母細胞に分化し、口が開くようにパカッと分かれ(対称分裂)、小さな穴を囲んだ一対の孔辺細胞、つまり気孔が形成されていくのです。

しかし、どうしてこのような過程をたどるのか、そこに働く制御因子については全く分かっていませんでした。

突破口となったのは、私の研究室で研究に励んでくれた、当時ポスドクLynn Pillitteriさんによる突然変異体の発見です。私たちは、この遺伝子調節タンパク質(転写因子)の変異体をmuteと名付けました。言わば植物の“口”である気孔がないので、ミュート『音が無い』という意味です。このMUTE遺伝子が発現しないと、実に面白い現象が観察されて、気孔(孔辺細胞)を作るかわりに、メリステモイドが非対称分裂し続け、グルグルと、バラの花のようになっていきました(図2)。


図2.MUTE遺伝子が発現しない場合、バラ状のものが形成された。スケールバーは20 μm。(図:Pillitteri, et al. Nature (2007) 445: 501-5. Copyright © 2015, Rights Managed by Nature Publishing Group


MUTEは、気孔形成の過程の中でも、メリステモイドで発現していることが分かったのですが、全てのメリステモイドで発現しているわけではありません。「できたて」の若いメリステモイドには発現しておらず、MUTEが発現することにより気孔の幹細胞が孔辺細胞へと分化していく、すなわち幹細胞状態からの分化を担うマスター因子だったのです。ですので、表皮全体にMUTE遺伝子を発現させると、表皮全てが気孔になります(図3)。初めて観察した時は、とてもびっくりしました。


図3.表皮全体にMUTE遺伝子を発現させると、表皮全てが気孔となった。気孔は開きっぱなしの状態。スケールバーは20 μm。(図:Pillitteri, et al. Nature (2007) 445: 501-5. Copyright © 2015, Rights Managed by Nature Publishing Group


次に、このMUTEに似た転写因子が二つあり、一つはSPEECHLESSと呼ばれ、これが欠損していると最初にメリステモイドが作られるべき幹細胞が形成できないことが分かりました。もう一つの転写因子のFAMAは、既に別グループから報告されていましたが、孔辺母細胞から孔辺細胞へと一度のみ分化するように制御しています。もしfama遺伝子が欠損すると、気孔の前駆体は対象分裂を繰り返し、ダンゴ虫のような形を作り(図4)、気孔を形成することができなくなってしまうのです。


図4.fama遺伝子が欠損すると、ダンゴ虫状のものが形成された。(図:Pillitteri, et al. Nature (2007) 445: 501-5. Copyright © 2015, Rights Managed by Nature Publishing Group


以上より、気孔形成過程を制御因子とともにまとめると、気孔は3ステップで発生することが分かってきたのです(図5):


図5.3つの制御因子による、気孔の形成過程(図:Pillitteri, et al. Nature (2007) 445: 501-5. Copyright © 2015, Rights Managed by Nature Publishing Group


まず,SPEECHLESSSPCH)タンパク質が、気孔(孔辺細胞)の前駆細胞であるメリステモイド母細胞を非対称分裂へと促します。非対称分裂を数回展開して、その後MUTEタンパク質が非対称分裂を停止させます。メリステモイド細胞は、孔辺細胞母細胞となり、最後に,FAMAタンパク質が孔辺細胞の分化を引き起こして、気孔が形成されていくのです。


今後、どのような研究成果を期待して、研究を進めていかれるのでしょうか?

先ほど、MUTEの過剰発現で得られた画像(ぎっしりつまった気孔)をご覧いただきましたが、本来、気孔はある程度の距離を保って存在することが必要でした。植物全体が細胞間コミュニケーションを行うことで、細胞が組織として成り立つようになるのです。

私の研究室では、気孔が均等に出来るメカニズムも精力的に研究しています。これには、一連のペプチドホルモンを受容体(ERECTAファミリー受容体キナーゼ)およびTOO MANY MOUTHS(意味:『口だらけ』)受容体パートナーが関与しています。これらのシグナル伝達が、SPEECHLESSやMUTEタンパク質を抑制することにより、気孔の数が増えすぎないよう、適切にできるように調節されています。2015年6月にNature誌に発表した論文(Jin Suk Lee, et al., Nature (2015) 522: 439-43では、ストマジェンとEPF2という、2つの相反するペプチドが同じ受容体(ERECTA)を奪い合うことにより適度な気孔の数が決まる、ということを示すことができました(図6)。


図6.ERECTAファミリーの変異体(左)と野生型(右)の気孔(図:Jin Suk Lee 博士より提供)


生物が、組織器官の形成過程に特殊な機能をもつ細胞を適度につくるということは、植物の世界にだけ起きているわけではありません。動物の筋細胞や神経細胞などの分化も、植物の細胞の分化に非常に通ずるところがあり、その共通性に驚くばかりです。マクロな視点では、私たち人間の社会も同じかもしれませんね。

植物の制御メカニズムの理解は、植物バイオマスや再生エネルギーという農業・地球環境問題に役立つばかりでなく、動物の細胞分化への共通性と照らし合わせ、医療へも応用できると信じています。植物に教えてもらいながら、興味のままに研究を進めていきたいと思います。



**母として**


研究者として、のみならず、母としてのキャリアも輝く鳥居教授。どのように両立していらっしゃるのでしょうか?

色んなやり方ってあると思いますが、私の場合を紹介します。

私は、第一子を妊娠時、ワシントン大学で助教授職に就いておりました。丁度その当時、ワシントン大学は、米国科学財団(NSF)の大学における女性リーダー育成プログラムの予算を獲得し、産前・産後休暇に入る際、教員に代用教員を当てる制度(teaching relief)ができました。私は「代わりにポスドクを雇いたい」とお願いし、大学側に受け入れて頂きました。幸いにも、新たに仲間となった若手研究者の活躍もあり、私たちの研究室は目立った研究成果を出すに至りました。

一方、仕事との両立は、制度が整っているだけでは難しいと思います。

私はアメリカ在住ですが、周りの大人たちが一緒になって子どもを大切にしてくれることに救われています。アメリカ人の“おおらかな”国民性というのもあるかもしれませんが、いわゆる“子ども”の行動に対して、「子どもなんだから、そんなこともあるよ」と細かいことを気にせず、理解を示してくださいます。仕事で講演会に連れて行っても、大変親切に受け入れてくださいます。肩身の狭い思いをしなくて済む、という有り難さこそ、仕事との両立につながると思っています。


育児で心掛けていらっしゃることは、どのようなことでしょうか?

育児も家事も、一人で追い込まないことにしています。

私たち夫婦は、親戚が近くにいるわけでもないので、協力し合うことが必要です(私の実家はアメリカより太平洋をはさみ、連れの実家は大西洋をはさんで離れています)。お互いに忙しい時間を送っていますが、だからこそ、食卓を囲む時間や、一緒に居られる休日は、家族皆で過ごす時間として大切にしているとも思います。子どもと接するときは、話をよく聴いてあげて、病気など問題にもすぐに気付いてあげられるように留意しています。

繰り返しますが、地域で子育てをするという社会はとても大切です。私は、生後6週間で保育園に入れましたが、保育士さんにも色々教えてもらいながら、“はじめて”ばかりの戸惑いから救われました。一人で思いつめるのではなく、声を掛け合いながら、育児を楽しみたいですね。



**鳥居啓子教授からのメッセージ**


最後、若手研究者 および これから研究に励もうと勤しんでいる若者へ、一言激励をお願いいたします。

生命科学は、私が大学院生をしていた頃からは想像もつかなかったほど発展し、今では多数の研究者とコラボレーションを行なうビッグサイエンスが主流となってきています。そんな時代だからこそ、若い皆さんには好奇心を持って純粋に興味あることを追求し、自分が面白いと感じるテーマに従事してもらいたいと心から願っています。

研究とは、先の見えない事を楽しむゲームでもあります。想定外の結果からこそ、大きな発見が生まれてくるかもしれません。推理小説を読むようにワクワクしながら実験し、自分で結果まで導くこと、そして「読者」から「著者」になるときに、学生から研究者へと成長する第一歩となるのではないでしょうか。

自分の研究を展開するために、シャイにならず、分野外の人やシニアな研究者に声をかけ、どんどんアプローチしてもらえれば、と思います。

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