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特集

研究者へのキャリアパス 大塚由美子さん(研究員) 特別インタビュー

  • 2015/11/25
  • 工学研究科
  • 大塚由美子さん(研究員)

名古屋大学大学院工学研究科の大塚由美子さん(研究員)、関隆広教授、竹岡敬和准教授は、角度依存性のない構造色の例として青い鳥の羽がもつ細孔構造を応用し、温度などの刺激によって様々な色に変わる高分子ゲルを開発しました。


温度上昇に応じて、赤→緑→青へと変化する高分子ゲル(写真は、竹岡准教授より提供)


これまでも、環境の変化や刺激に応じて様々な色に変化する高分子ゲルなどは、センサーや表示材料などに多く用いられています。そこに使われている科学技術は「構造色」という、その物質自体がもつ色ではなく、その構造に光が反射し干渉を起こすことで色を表す現象を応用します。ただし、材料とするには、構造色の特徴である「見る角度により色が異なってしまう」という問題点を克服する必要がありました。
本研究で開発された高分子ゲルは、その角度依存性を生じずに様々な色を示します。また、その構造が細孔構造のため、刺激応答速度が1000倍以上速くなることも明らかになりました。
本研究は、2015年10月26日発行のドイツ国際学術雑誌Angewandte Chemie International Ed.誌(電子版)に掲載され、また本論文は、編集委員によって特に重要な論文(Hot Paper)として位置づけられ、その概念図は中表紙(Frontispiece)にも選出されました。→リンク:名古屋大学プレスリリース

本研究責任者の竹岡准教授は、大塚さんのオリジナルな実験方法は「家庭サイエンスのようなアイデアが活かされている」とし、研究を円滑に進めていく上で必要不可欠だったと称賛しています。研究者への一キャリアパスとして、専業主婦の経験があるからこそ、と研究に取り組む大塚さんを取材しました。

(聴き手:梅村綾子/NU Research)


~専業主婦の経験があるからこそ~


名古屋大学で研究を始める前はどんなことをしていたのですか?

名古屋大学で研究を始める前は、専業主婦をしていました。実は、専業主婦になるまでも、色々な仕事を経験してきました。


—色々な経験も、とにかく前向きに行動にうつす


私は、東京理科大学 基礎工学部 生物工学科を卒業後、日本ロシュ株式会社(現 中外製薬)に就職し、鎌倉にある研究所で抗がん剤開発の研究に携わっていました。しかし、研究という仕事を楽しんでいたのも束の間、携わっていたプロジェクトが1年半で打ち切りとなり、本社へ異動となりました。本社では、研究ではなく、治験の副作用報告など安全性情報に関わる仕事をしました。その後、結婚を機に名古屋支店へ転勤となり、治験を行う病院の市販後調査などを担当しました。

その後、大きな転機は二度ありました。

一つは、出産とロシュ社の退職です。

出産を迎え、家族間の問題もあり仕事が続けられないと判断し、ロシュ社を退職しました。そして子育てしながら、1年という短期契約が可能である派遣社員として、治験を請け負う会社や製造業の事務職や研究補助として働きました。

二度目は、育児との両立が適わず、仕事への挫折でした。

その頃、企業で化学合成の研究に携わっていたのですが、長男がアトピーに加え喘息を発症してしまい、保育園にも通わせることができなくなりました。時間的な制約に困難を覚え、はじめて「モチベーションが下がる」思い、というか、仕事で挫折したと思っています。

でもそれを機に、子育てこそ、一生のうちに今自分がやるべきことだと気付き、専業主婦をやることにしました。次男が小学校に上がるまでの6年間は、あまり焦らずに子ども達と向き合いたい、そう考えるようになりました。


どんな6年間を過ごされましたか?

自分の中に、「まずやる」「絶対あきらめない」というモットーが常にあるため、仕事ができないことにおいては「これならできるはずなのに・・」とフラストレーションに思ったこともありました。

しかし、その分、子育てに専念し、小学校や幼稚園でPTA役員など、子育てに関する色々な仕事をやらせて頂きました。区の保育連で理事を頼まれたり、意見交換の場に参加したりするうちに、世の中を動かすにも色々な仕事があるんだと思うようにもなりました。出来る限り協力したい、ととにかく前向きに取り組むようにしていました。


専業主婦をご経験後、仕事復帰として、なぜ研究員を選ばれたのですか? また、どんな思いで仕事復帰をされましたか?

私は実験がとにかく好きで・・やるならもう一度実験系に挑戦してみたい、と思い、派遣先のコーディネーターさんに相談しました。そして、名古屋大学大学院 工学研究科 生物機能工学分野の研究室をご紹介頂きました。9か月の短期契約というのも、私には理想的でしたし、何と言っても、生物系の実験ができる、ということも本当に幸せに思いながら研究に従事しました。


できなかった時期があるからこそ


ただ、出勤初日は、次男にとって、ママと離れるという過酷な試練となってしまいました。「ママ行かないで!」と号泣し吐いてしまうほどで、しかしそれを押し切って出勤しなければなりませんでした。

でもその時に、私は完全に心に誓ったと思います。子どもを我慢させてまで仕事をするのであれば、中途半端なことはできない、どんなことでも100%の力を出してやろう、と。

出勤二日目は、次男も理解してくれたのか、「あの時なんで泣いたのか分からない。僕、子どもだったね」と言ってくれました。今では、「ママ、いつも楽しそうに仕事していていいね」と言ってくれるほど応援してくれます。

子ども達が言ってくれるように、「楽しい」というのは本当です。できなかった時期があるからこそ、今本当に幸せな気持ちで研究できる、と思っています。


その後、物質系の竹岡准教授、関教授のもとでご研究を始められて、どんな心境でしたか?

最初は、言葉が全然通じなくて困りました。例えば「IR」とか「カンチレバー」とか、単語の意味すら分からなかったので、論文も中々読み進めることすら難しく、まずは知識を付けようと一生懸命勉強しました。特に物理的なことは知識がなくて不安を覚えましたが、竹岡先生に「お料理ができればできるよ」と励まして頂き、少しほっとしました。


どんな宝石よりも美しいものに出会った


白色粒子のみからうまれた、オパールの輝きを示す構造色

「どんな宝石よりも美しいです。こんな素敵なものと研究で向き合えるなんて、本当に幸運です」と大塚さん



実際、実験を通して、自然界の現象、例えば構造色を材料に応用する面白さに触れられるということが楽しくて、毎日「今日も実験できる!」とワクワクしながら研究課題に向き合っています。

今年で5年目になりますが、楽しみ方には未だ新鮮味を覚えています。私は元々、生物系の感覚で物事を見ているため、扱っている材料(ゲル)を生き物に関連して考えています。自然界と何かしらのつながりを見出すことも楽しみの一つです。


研究生活で大変なところはどんなところですか?

私の場合、時間への制約があるため、時間を忘れて研究に没頭したくてもそれができません。


タイムマネジメントは絶対!


家庭と仕事との両立にタイムマネジメントは絶対で、10分単位で予定を組んでいます。無駄のない行動に心掛けたいところなので、その工夫として、大切な予定から逆算して行動に移すようにしており、また、電車よりも自転車を行動手段にしています。ひたすら体力勝負なところもありますが、ジムに行く必要もない、とポジティブに考えています。

一方で、タイムマネジメントが上手く行かないときももちろんあります。でもそういう時は、トワイライトスクールでお世話になったり、子ども達のお迎えを両親に頼んだり、研究室にも多大なご理解を頂き、感謝の限りです。皆さんのご協力をありがたく受け止め、感謝の気持ちを常に持ち続けていきたいと思います。


今後の目標とは?

研究成果が一つ出れば、また次の研究課題が出てきます。しかしその度に、基礎知識を付けたり、新しい実験に挑戦したり、ととにかく楽しんでいきたいと思います。そしてゆくゆくの目標として、私が学んできた事はわずかですが、それでも何か未来を明るくするものを生み出せたらと思います。

毎朝、関先生とのコーヒーブレークの時間を楽しみにしているのですが、ある時ノーベル賞の話題になり、関先生が「研究の目的、本質をあらためて考えさせられた」とおっしゃっていました。私も、自己満足ではなく、子ども達の未来に微力でも還元できるように努力したいと思います。


関研究室の皆さん



情報リンク集

Yumiko Otsuka, Takahiro Seki, and Yukikazu Takeoka.

Thermally Tunable Hydrogels Displaying Angle-Independent Structural Colors.

Angew. Chem. Int. Ed. (2015).
(First published on October 27, 2015; doi: 10.1002/anie.201507503)

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