若手新分野創成研究ユニット 黒澤昌志講師・大田晃生特任助教・洗平昌晃助教 特別インタビュー

  • 2017/03/22
  • IV族元素による新奇二次元物質創生ユニット
  • 黒澤昌志講師(工学研究科)
  • 大田晃生特任助教(工学研究科)
  • 洗平昌晃助教(工学研究科/未来材料・システム研究所)

名古屋大学は、研究大学強化促進事業の一プログラムとして、若手研究者の育成と視野拡大に注力し、若手研究者による新分野創成を支援しています。平成27年度には、「IV族元素による新奇二次元物質創生ユニット(代表:工学研究科 黒澤昌志講師)」が結成され、二次元物質に代表される炭素素材「グラフェン」の炭素をIV族(シリコン、ゲルマニウム、など)に置き換えた新奇二次元物質の創生に挑戦しています。中間報告ともなった研究成果は、平成28年7月5日にJapanese Journal of Applied Physics (JJAP) 誌にオンライン公開され、特に応用物理分野の研究者に興味深いと思われる論文(JJAP Spotlights 2016)に選出されました。

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本研究ユニット結成の経緯、活動状況、および将来の展望を伺うべく、ユニット構成研究者の黒澤昌志講師、大田晃生特任助教および洗平昌晃助教を取材しました。

(聴き手:梅村綾子/NU Research)

「工学」と一言に言え、その内容は多種多様。専門性の異なる若手研究者らが集い、協力し、未踏の物質を創生する。

NU Research:

先生方は、平成27年度より「若手新分野創成ユニット」として活動を開始され、ここで2年が経とうとしています。今日は、これまでの2年を振り返りながら、先生方のご活動について聞かせてください。
まず、先生方はどのような経緯で研究ユニットを結成されたのでしょうか。もともと一緒に研究をしていた経緯などがあったのでしょうか。

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「新しい分野を切り拓く」というミッションのもとに集結

黒澤講師:

本ユニットの結成は、全く予想外のことでした。振り返れば、発端は、私の上司にあたる財満鎮明教授からの紹介です。その時初めて、研究大学強化促進事業の一プログラムに「若手新分野創成研究ユニット」の支援があることを知りました。

このプログラムは、2~3名の若手研究者が一丸となって「新分野」を切り拓くことをミッションとしています。しかし、「何をテーマに誰とどう達成するか」、実に課題はそこからでした。私は「結晶成長」に関するモノづくりが専門ですが、このとき視野を広げるチャンスに恵まれ、新奇二次元物質というモノに出会いました。

洗平助教:

このユニット名にも付いている、「IV族元素による新奇二次元物質」とは、二次元物質に代表される炭素素材「グラフェン」とよく似たIV族(シリコン、ゲルマニウム、スズなど)の元素で構成されている材料のことです。私が所属する研究室の白石賢二教授は、理論計算を行うことで、世界に先駆けてこの物質が実在できることを予測しました。が、未だその実現は難しいとされており、結晶の成長プロセスの確立が求められています。

これらの接点から、結晶成長を専門とする黒澤講師と計算物質科学を専門とする私が知り合いました。いよいよ「IV族元素による新奇二次元物質の創生」に向け期待が募りましたが、理論と実験をつなぐにはそれを評価できる専門家が必要だと判断し、大田特任助教に声を掛けました。

大田特任助教:

私がその話を聞いたのは、とある研究会で、洗平助教と同席したときのことだったと思います。私はX線光電子分光分析法(XPS)による物質評価を専門としており、本ユニットが目指すことに協力できるかもしれない、と期待を抱きました。

そうして一致団結し、学術研究・産学官連携推進本部のリサーチ・アドミニストレーター(URA)からの提案も受けながら、皆で揃って「若手新分野創成研究ユニット」の申請書作成へと取り掛かりました。

NU Research:

「新しい分野を切り拓く」というミッションのもと、申請書の作成も難しかったのではないでしょうか。

黒澤講師:

研究テーマの設定について、基礎研究か応用研究かで焦点は異なりますし、そもそも私たちの専門分野も異なります。実際、1回目の申請書は不採択で、2度目のチャレンジで採択に至りました。考え直す良い機会になったと思います。

洗平助教:

IV族元素による新奇二次元物質の創生が簡単ではない、ということは、関連論文数の推移からも伺えます。IV族元素による二次元物質は、白石教授らがシミュレーションで予測後、欧米では右肩上がりに研究が拡がっているものの、数としては少なく、日本においては論文自体あまり出ていません。作製方法が特殊で、再現が難しいためだと考えられます。

私たちは、そうしたシミュレーションで予測されているものの、未踏の物質を存在させることで、新しい物性を知ることにこそ研究価値を置くことにしました。

大田特任助教:

例えば、グラフェン研究では全く新しい物性を得たことで、シリコン半導体の限界を超える材料として期待が高まっています。さらには、二硫化モリブデン(MoS2)がグラフェンに継ぐ半導体材料として最近大きな注目を集めていますが、これも作製方法が確立してきたことが理由です。新しい物性を知ることは、新しい分野を切り拓くことに通ずることだと思っています。

NU Research:

新しい材料の創生は、新しい物質から得られるであろう「新しい物性」に、その鍵があるのですね。

黒澤講師:

シリコン半導体は、トランジスタという電気の流れをコントロールする部品(スイッチ)として用いられています。省電力を達成するため、これまではサイズを小さくするように開発されてきたのですが、それもそろそろ限界に来ています。

そこに代わる材料として注目されているのがグラフェンです。グラフェンは、特に高速トランジスタとして期待が集まっています。さらに、電気を通しにくい性質である絶縁体の特徴を取り入れ、スイッチのオンとオフとを可能にしたのがシリセンです。私たちも、新しい物性の発見による新しい材料により、新しい分野を切り拓いていくことを目指します。

NU Research:

これまでに、どのくらい研究成果として出ているのでしょうか。

二次元化を好まないシリセンがヒントに

黒澤講師:

3人とも研究室の場所が物理的に離れており、それぞれに研究課題が別にあるため、中々頻繁にとはいきませんが、それでも数か月に1回のペースでミーティングを開いています。

二次元結晶作りは、私の研究室と大田特任助教の研究室とで、装置も色々に試して取り組んできました。現在、大田特任助教の研究室にある装置で、金属の上に二次元結晶を作ることに成功しています。

大田特任助教:

方法としては、銀の表面にゲルマニウムを析出させることで、その表面に数ナノメートルの膜(二次元結晶)を作っています。

嬉しいことに、私たちの中間報告ともなったこの成果がJJAP Spotlights 2016に選出され、益々の励みになっています。原子間力顕微鏡で結晶表面を確認したり、表面にどんな元素が含まれているかXPSで分析したりしながら、理想の二次元結晶へと、少しずつ温度条件などのパラメーターを調整し達成していきました。今は、学生が研究テーマにして、再現性良く結晶を作ることができています。

洗平助教:

この銀の基板上にゲルマニウムを析出させた二次元結晶(ゲルマネン)は、技術として今までになく、完璧にオリジナルです。ヒントとなったのは、シリセンの作製方法です。シリコンはもともと二次元化を好まない物質ですが、非常に限られたパラメーターなら、二次元結晶が作製できるのです。シリセンが、特に金属上で安定して作製されるため、ゲルマネンも同様に銀基板上に作製することにしました。

NU Research:

物質の性質について理解を深めれば、その作製技術も確立できていく、ということですね。

大田特任助教:

更に、この技術の興味深いところは、経済的に好都合で、かつ装置的にも特殊なものを使わないでできることにもあると思います。例えば、銀の単結晶の基板を使うと30万円するところが、私たちの技術なら、5,000円くらいのシリコン基板に、1万円もしない銀のワイヤーを溶かして飛ばすことで、銀の薄膜基板が用意できます。

黒澤講師:

二次元結晶であるためには、粒子が均等に並んでいることが必要です。中間報告の際は、粒子の並びが確認できていませんでしたが、それを評価する方法も見出しました。近い将来、論文で発表する予定です。

ユニット結成がきっかけとなり、更なる興味へ挑戦

NU Research:

最後に、今後の目標や興味に思っていることをお聞かせください。

黒澤講師:

このプロジェクトは3年間で成果を出し、終了1年後までには大型予算を申請することが一つのタスクとなっています。個々に挑戦するか、もしくはユニットとして挑戦していくか、いずれにしても、このユニット研究で得られたものは大きかったと思います。

私個人としては、科学技術振興機構のさきがけの一プログラムにも採択され、効率的な熱電材料の創製を目指し、新たな挑戦へと一歩を踏み出しました。特に二次元結晶の作製に成功し、その二次元の層の厚さによる物性の違いが益々興味になっています。つまり、層の厚さによって熱の伝わり方(熱伝導率)が変化するのですが、熱電材料として一層の方が面白い物性が出るのか、もしくは二層~三層の方が材料として適当なのか、今後議論を進めていきたいです。

洗平助教:

私も、もともと電気伝導が専門であるため、今後も黒澤講師の熱電材料の物性評価に協力していきたいと思っています。一方で、触媒や燃料電池の開発に関する理論計算にも興味があります。前者が電子物性なら、後者は原子物性ですが、いろんなものに適応できるプログラムコードを開発し、議論の幅を拡げていきたいです。

大田特任助教:

私の場合は、まずこのプロジェクトの延長線上で、絶縁性の基板上に二次元結晶が作製できるか、挑戦してみたいと思っています。さらに展開できるなら、この成果を応用したデバイスを作っていきたいです。願わくは、デバイスの専門家ともユニットを組み、一緒に協力しながら進められたら、と思っています。個人的な興味としては、この二次元結晶の状態密度をいかに精度よく測るか、を追及していきたいです。

NU Research:

先生方、本研究ユニット結成の経緯、そしてこれまでの研究成果や今後の展望をお話頂き、ありがとうございました。
ユニット結成が契機となって、挑戦の幅も拡がっていることを教えていただきました。これからも専門性やご興味を追求しつつ、異分野融合で協力しながらご活躍されることを期待しております。

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