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「意欲と勇気」の学術書出版

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  • 2017/09/05

国際機構

辻篤子特任教授(「名大ウォッチ」より転載)

 名古屋大学に関して特筆すべきことの一つに名古屋大学出版会の存在がある。東京の知人からそう聞いていた。小さいながら、「学術書の出版賞受賞の打率は抜群に高く、優れた出版を続けている」という。その秘密を探ってほしいと託されてもいた。
 その出版会について、8月13日付け毎日新聞の書評欄に「本書を出版した団体の意欲と勇気」、そして「今学術出版でこれほどの覇気を見せているのは他に見当たらない」と、これ以上ないくらいの賛辞が捧げられていた。取り上げられた本は「原典 ルネサンス自然学」、上下巻それぞれ約650ページ、税込で9936円という大部かつ高価、しかも極めて学術的な内容である。それをあえて一般向けの書評欄で紹介したのは、内容に加え、上記のような出版事情を書きたかったからだと記されていた。
この本は「万物をめぐる知の総体を集成」とうたい、ニュートン、ケプラー、ボイルといったいわゆる科学者の著作だけでなく、料理や温泉、錬金術なども含めた同時代の代表的な学術文献を合計30編、初訳で収めている。学術的だが、決して一般読者を拒絶するものではない、そんなたたずまいである。それでも、出版不況と言われて久しい現在、これだけの本を出版するのは確かに勇気を要することではあるのだろう。


 それほど評判の高い名大出版会とは?と思ったら、いきなりつまずいた。実は、名古屋大学・出版会ではなく、名古屋・大学出版会なのだという。名大という略称はふさわしくないのだ。
 1982年に創設された際の目的は、「名古屋大学及び中部地方の各大学」の教職員らの研究成果の発表や、民間では採算上引き受けないような優良学術図書の刊行を行い、「中部地方の、さらにはわが国の学術・文化の振興に寄与する」ことで、地域に広く協力を募った。同出版会10年誌によれば、当時、学術出版はどん底と言っていい時期であり、また極端な東京一極集中のもと、名古屋でうまくいくか、先輩格の大学出版関係者は固唾をのむような気持ちで発足を見守ったとある。地域の力を結集することが不可欠であり、実際そうすることによって成功にこぎつけた、ともある。会長は名大総長、理事長は名大教授が務めるが、地域の大学の学長が現在も評議員としてその名を連ねている。
 そして現在、一般財団法人として、東山キャンパスの豊田講堂脇、自前で建てた名大広報プラザの建物に賃貸料を払ってオフィスを構えている。編集部員6人、総務・営業3人の小さな所帯である。
 専務理事と編集部長を兼務する橘宗吾さんを訪ねると、著者は「おおよそ名大が3分の1、中部地域が3分の1、それ以外が3分の1」ということだった。地域に軸足は置きつつ、必要に応じて広げる、ということだろう。その結果が、毎年30数点の書籍を刊行し、今年8月末までの累計刊行点数883、さまざまな団体や学会の賞など受賞件数174、という実績だ。複数受賞もあるが、刊行点数に対する受賞割合はざっと2割になる。確かに「抜群に高い打率」である。


編集部長の橘宗吾さん


 「その秘密はどこに?」と尋ねると、橘さんはこう答えた。
 「よく聞かれますが、特にありません。受賞が多いのは、著者の一番いいところを出してもらっているということでしょうか。出版社としては賞をめざしているわけではなく、とにかくいい本を作ることだけです。テーマがいいこと、さらに書きぶりも大切です」>>「名大ウォッチ」で続きを読む。


辻篤子(つじ あつこ):1976年東京大学教養学部教養学科科学史科学哲学分科卒業。79年朝日新聞社入社、科学部、アエラ発行室、アメリカ総局などで科学を中心とした報道に携わり、2004〜13年、論説委員として科学技術や医療分野の社説を担当。11〜12年には書評委員も務めた。2016年10月から名古屋大学国際機構特任教授。

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