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世界を変える研究所の挑戦

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  • 2018/02/09

国際機構

辻篤子特任教授(「名大ウォッチ」より転載)

 「異分野融合」が言われるが、現実にはそう簡単なことではない。専門の違う研究者を一箇所に集めれば進むというわけでは決してない。名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)は、その異分野融合の稀有な成功例ではないだろうか。文部科学省の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の一つで、現在ある9拠点の中では先発組から5年遅れの2013年にスタートした。予算規模も半分の末っ子だったが、すでにいくつもの大きな研究成果をあげ、トップレベルの高評価を受けている。春からはさらに2拠点がスタートするが、堂々たる兄貴分に成長したといっていい。

 拠点長の伊丹健一郎教授によれば、化学と植物科学など、もともと名大が強い分野を融合させた、いわば「ナゴヤサイエンス」だ。だが、拠点がスタートしたほんの5年前までは、同じキャンパス、いや同じ理学部にいながら、「隣は何をする人ぞ」状態だったという。何がそれを変えたのか。


伊丹健一郎教授の研究室には「ドラえもん」全館がある。ドラえもんの秘密道具を分子で創るのが夢、いわば今日科書だという。


 融合の威力がよくわかる研究成果の発表が1月にあった。鳥居啓子教授らによる、植物の主要なホルモンであるオーキシンに関する研究だ。

 オーキシンそのものは、ごく単純な構造の小さな分子にすぎない。それが、根や茎、花を作ったり、光に向かって伸びたり、そこらじゅうにあってそれぞれ違う多様な働きをしている。まるで小さな魔法使いさながら、どこでどう作用しているか、そのメカニズムは謎に包まれていた。

 研究グループは、普通のオーキシンに出っ張りをつけた凸オーキシンと、それがピッタリはまるくぼみのある凹受容体を作った。植物の狙った場所にこの凹受容体を組み込むと、普通のオーキシンには反応せず、凸オーキシンにだけ反応する。この凸凹法によって、オーキシンの様々な働きを個々に解明する道が初めて開かれた。実際にこの方法を使って、暗闇で発芽したもやしが光を求めて急速に伸びる際にオーキシンがどのように働いているのかも突き止めた。これはダーウィンが130年以上前に発見し、後にオーキシンが発見されるきっかけになった現象で、その謎にも答えを出した。

 オーキシンは、植物科学のスター的な存在とあって、「凸凹法を発表した昨夏の国際学会は大騒ぎになりました」と鳥居さんは振り返る。

 研究に道を開いただけではない。合成オーキシンは、果実の成熟や除草など広く使われているが、場所によって全く異なる働きをするため、使い方が難しい。例えば、果実の成熟のためには、一つひとつの花にかけていく必要がある。凸凹法を使えば、空から散布しても目的の果実だけに働く、といったことも原理的には可能になる。


オーキシンの研究グループ。左から、打田直行特任准教授、鳥居啓子教授、萩原伸也准教授、高橋宏二助教。出身は、薬学、生物学、工学、農学と多彩だ。


 では、この成果はどのようにして生まれたのか。>>「名大ウォッチ」で続きを読む。


辻篤子(つじ あつこ):1976年東京大学教養学部教養学科科学史科学哲学分科卒業。79年朝日新聞社入社、科学部、アエラ発行室、アメリカ総局などで科学を中心とした報道に携わり、2004〜13年、論説委員として科学技術や医療分野の社説を担当。11〜12年には書評委員も務めた。2016年10月から名古屋大学国際機構特任教授。

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