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もう一つのトランスフォーマティブ

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  • 2018/02/26

国際機構

辻篤子特任教授(「名大ウォッチ」より転載)

 名古屋大学でトランスフォーマティブといえば、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)のトランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)が頭に浮かぶだろう。そこにもう一つの「トランスフォーマティブ」が名乗りをあげた。青色発光ダイオード(LED)で2014年のノーベル物理学賞を受賞した、名古屋大学未来材料・システム研究所の天野浩教授が掲げる「トランスフォーマティブエレクトロニクス」である。「トランスフォーマティブ」は、「世界を変える」といった意味で、ITbMは「分子で世界を変える」という思いを込めている。同じ言葉を使っていいか、天野さんがITbMの拠点長である伊丹健一郎教授に尋ねたところ、「相乗効果になってむしろありがたい。名大はトランスフォーマティブでいきましょう」という答えが返ってきたという。
 こちらは「エレクトロニクスで世界を変える」というのである。どうやって? しかもそれを大学で? 天野さんを訪ね、真意を聞くことにした。

 天野さんが最初に考えたのは、「エネルギーの変換(transformation of energy)」という言葉だった。LEDは電気エネルギーを光エネルギーに変え、太陽電池は逆に光エネルギーを電気エネルギーに変え、スピーカーは電気エネルギーを音に変える。エレクトロニクスの本質はエネルギーの変換であり、その根本に挑むことで社会に大きなインパクトを与えたいと考えたからだ。海外の知人が、それなら「トランスフォーマティブ」という言葉にしてはとアドバイスしてくれたのだ。
 「トランスフォーマティブ」は近年、科学研究の世界で重要なキーワードになっている言葉だ。全米科学財団(NSF)は、これから重要なのは「トランスフォーマティブリサーチ」であるとし、その可能性のある研究を積極的に支援していきたいとしている。そして、次のように定義する。
 「科学や工学の既存の重要な概念や教育の実践に関する理解を根本的に変えるようなアイデアや発見、あるいはツールに関する研究である。こうした研究は、既存の考えに挑戦したり、フロンティアへの道を切り拓く」
 天野さんはもともと、単にエネルギー変換でなく、感動も与えられるようなエレクトロニクスをやりたいという思いがあった。例えば、ディスプレイはたくさんのフィルターを通して白色光をフルカラーにするので極めて効率が悪く、わずか5%でしかないが、そのディスプレイで映画を見た人が感動すれば、感動エネルギーはカウントレス、つまり効率は無限大になる。エネルギーの変換効率を上げるのはもちろん、そこから新たな価値を生み出すことで世界を変える。「トランスフォーマティブ」は研究の目標としてまさにぴったりだった。


青色LEDは世界を変えた。天野浩教授は「エレクトロニクスを通して社会を変革したい」とさらにその先を見据える。


 具体的にはどういうことか。ひとくちにエレクトロニクスと言っても、きわめて広いし、私たちの生活はいうまでもなく、それなくして成り立たない。
 天野さんがめざすのは「高度なIT社会を実現するためのインフラ」としてのエレクトロニクスだという。自動運転が実現したり、人工知能(AI)が私たちの仕事や暮らしを大きく変えたり、来るべきIT社会が盛んに語られているが、それらを実現するための手段が実はまだ足りない。ありとあらゆる場所に半導体の部品が入るようになり、その数も、またそれを処理する通信能力も桁違いに必要になる。例えば自動運転でも、コンピュータを積んで100%処理するならスパコン並みの性能が必要になるし、積まずに通信でこなそうとすると、今の100倍、1000倍の大容量の通信システムが必要になる。それをこなせるだけの高性能の半導体がまだ開発途上なのだ。>>「名大ウォッチ」で続きを読む。


辻篤子(つじ あつこ):1976年東京大学教養学部教養学科科学史科学哲学分科卒業。79年朝日新聞社入社、科学部、アエラ発行室、アメリカ総局などで科学を中心とした報道に携わり、2004〜13年、論説委員として科学技術や医療分野の社説を担当。11〜12年には書評委員も務めた。2016年10月から名古屋大学国際機構特任教授。

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