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博士の多彩な能力を生かす

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  • 2018/05/01

国際機構

辻篤子特任教授(「名大ウォッチ」より転載)

 博士といえば研究者、というイメージを抱く。だが、博士には研究をするだけではない、さまざまな役割がある。名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)を訪ね歩きながら、改めて感じたことだ。ITbMは分子をキーワードに異分野を融合させた研究を進め、大きな成果をあげていることを先に紹介した。そのユニークな研究活動は、直接研究をするわけではない博士たちの活躍あってこそ、であり、その意味で彼らは研究者と対等のパートナーなのである。

 昨今盛んに報道されるように、博士を取り巻く状況は厳しい。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が2月末に発表した「博士人材追跡調査」第2次報告書でも、民間企業での雇用は伸びず、アカデミアでも特に理学系では安定した雇用が得られにくい現状が指摘されている。社会人や留学生ではない課程博士は修了時にその6割が学資金などの借り入れを抱えているという調査結果もあった。こうした現実を反映してか、博士課程入学者は2003年度の18232人をピークに2016年度までに3000人以上減ってきている。
 だが、高度人材としての博士はこれからの日本社会にとって極めて重要であることは間違いない。博士たちがその能力を発揮できる場を広げていく必要がある。その方策の一つが博士のキャリアパスの多様化だ。

 かつて米国で科学報道に携わっていたとき、博士たちが狭い意味の研究だけではない、さまざまな場所で力を発揮している様子を見て、日本との違いに驚いたことがある。ジャーナリストから議会スタッフ、博物館にベンチャー企業まで、専門性を生かしながら働いている博士にあちこちで会った。例えば銀行にも博士がいて、学会などをまめにのぞいて研究の動向を知り、それを投資の判断に生かすのだと聞き、同様のことが日本であるだろうかと思わされた。
 もっとも、話を聞くうち、日本の博士が狭い分野での特化した専門家というイメージがあるのに対して、米国での博士はむしろ「広い」、いろいろな課題に取り組む力がある存在だとされており、そもそも博士の教育に違いがあることも痛感した。
 ITbMの宮﨑亜矢子・特任助教は英国のインペリアルカレッジで化学を学んだ博士で、海外も含めた広報を担当している。ロンドンでの学生時代を振り返り、「博士課程の友人たちは、医学部に進んだり、地下鉄に就職したり。そのまま大学に残った人はほとんどいなかった」と話す。自身は帰国後、メーカー勤務を経て、科学技術振興機構(JST)の研究プロジェクトの一員になり、ケミカルバイオロジー分野の研究をしていたときに誘いを受け、ITbMに転じた。当初は、研究もしていたが、両立が難しくなり、現在は主に広報活動をしている。
 自分の研究が社会に役立つところまでを見たいと思いつつ、基礎研究ではその実感を持ちづらかった宮﨑さんにとって、広報の仕事は、得意分野を生かしながら社会と関われる魅力があるという。10歳のときに帰国して苦労した経験から、異なる文化をつなぎたいという思いもあった。科学の世界のワクワク感にしても文化の違いにしても、人々が知らないことは多い。それを世界に伝えて共有してもらう、そんなキャリアパスを描きつつあるという。自ら手を動かして実験する研究活動から離れる寂しさ、そして将来への不安を感じていた時期もあったが、進む道を思い定めた今、そんな気持ちは吹っ切れたという。


国際広報なども担当する宮﨑亜矢子特任助教


 宮﨑さんをITbMに誘ったのは、JSTの同じプロジェクトのメンバーだった佐藤綾人・特任准教授である。拠点長の伊丹健一郎教授が、ITbMを作り上げるうえで最大の功績者と讃える一人でもある。>>「名大ウォッチ」で続きを読む。


辻篤子(つじ あつこ):1976年東京大学教養学部教養学科科学史科学哲学分科卒業。79年朝日新聞社入社、科学部、アエラ発行室、アメリカ総局などで科学を中心とした報道に携わり、2004〜13年、論説委員として科学技術や医療分野の社説を担当。11〜12年には書評委員も務めた。2016年10月から名古屋大学国際機構特任教授。

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