乗り物酔い止め薬が骨伸張を促進
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- 2013/12/24
右: メクロジンを投与したネズミの骨
名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学の鬼頭浩史准教授を中心とした研究グループは、乗り物酔い止め薬の成分「メクロジン」が骨の成長を促進することを発見しました。治療法の確立されていない難病、軟骨無形成症の根本的治療につながりうる発見として注目を集めています。この研究成果は12月4日付でPLOS ONEオンライン版に掲載されました。
軟骨無形成症は、15000人に1人の割合で発症し、低身長、骨の成長不全による神経の圧迫などを引き起こす難病です。この原因遺伝子として骨の成長抑制因子である線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor 3: FGFR 3)が特定されていましたが、根本的な治療法は確立されていません。現在この病気を発症した場合、成長ホルモン治療や骨延長術が行われてきました。しかし成長ホルモンはもともと軟骨無形成症患者において十分に分泌されているため投与しても効果が低い点、また骨延長術は骨を切って成長させる過程で感染症や合併症を引き起しうる点が問題とされてきました。
鬼頭准教授は副作用の心配のない効果的な治療法を見つけるため、認可されて一般に普及している既存薬1186種類の薬効をスクリーニングし、FGFR3の抑制作用がある成分を探しました。その結果、乗り物酔い止め薬の成分「メクロジン」にFGFR3を抑制する機能があり、胎児期のマウスの骨に投与した時にその伸長を促進することを確認しました。メクロジンは50年以上も乗り物酔い止め薬に用いられており、乗り物酔い止め目的の摂取量では安全性が確立されています。身長を伸ばすためには長期的に薬を投与することが必要になるため、今後は動物実験によりメクロジンの投与量・効果・副作用の相互関係を調べ、安全性が確認された場合は早期に臨床治験に結び付けられることが期待されています。
なお、メクロジンの作用は成長期の子供には有効ですが、成長しきった大人には効果はないことがわかっています。
鬼頭浩史 准教授
鬼頭浩史准教授は、骨の形成不全により生活に支障をきたした患者さんの助けとなるため、難病の根本的解決になりうる新たな治療法を研究してきました。今回の研究は既存薬の新たな可能性を探るドラッグ・リポジショニング戦略の一環です。安全性が確保された薬の新たな可能性を探り、軟骨無形成症の副作用のない治療法を比較的短期で開発することを目指しています。
今後の展望
軟骨無形成症モデルマウスに対するメクロジンの骨伸張促進効果を検証し、薬剤の至適濃度を決定します。次いで、大型動物を用いてその濃度における安全性試験を行います。それらがクリアされた場合、医師主導型治験を実施する予定です。本研究は類似の機序によって生じる他の疾患(重症のタナトフォリック骨異形成症、軽症の軟骨低形成症など)の治療にも寄与する可能性があります。
これから研究を始める人へ
教科書や専門雑誌に書かれていることを参考にするのはよいですが、鵜呑みにして過信しないようにしましょう。「常識」といわれていることの中にも、エビデンスがないことがしばしばあります。研究者としては自らが確かめた事象だけを信じ、少しでも人の役に立つ研究ができれば最高ですね。