潤いが枯死を招く: 水の循環とシベリアの北方林
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- 2014/02/17
名古屋大学大学院生命農学研究科太田岳史教授、小谷亜由美助教を中心とした国際研究グループは、降水量増加に伴う土壌の湿潤化がシベリアヤクーツク近郊の北方林へ被害をもたらすことを世界で初めて発見しました。この研究成果は2014年5月15日にAgricultural and Forest Meteorologyに掲載されるに先立ち、1月22日にオンライン版で公開されました。
北方林とは北欧、北米やロシアなどの寒冷地域に広がる針葉樹林であり、一般的にタイガと呼ばれます。北方林の減少が温暖化につながりうること、また大気循環によって風下に位置する日本の気候にも影響を与える可能性があることから、近年その生態系が注目を集めています。これまで気候の乾燥化が森林に与える被害のみが注目されてきましたが、湿潤化がもたらす影響についてはわかっていませんでした。
太田教授は日本・ロシアの国際共同研究グループを率い、1998年から現在に至るまでヤクーツク近郊の実験林で土壌や大気と植生の間における水循環を調査してきました。太田教授は、長期観測データから2001-2004年は降水量が少なく、2005-2008年にかけては4年間の内3年で降水量が年間300mm以上を記録し,2005年には過去30年間で最も多い降水量である年間330mmを記録したことを確認しました。また降水量の変化に伴い、土壌水分量は2000-2004年には減少、2005-2009年には増加しました。この時、乾燥期には北方林に変化が現れなかった一方で、2005-2008年の湿潤期以降現在まで土壌水分量に対する蒸発散量や光合成量が通常より減少し、森林が衰退したことがわかりました。その結果,写真に示すように森林が枯死しています。ヤクーツク近郊の北方林は水はけの悪い永久凍土の上に生息するため、土壌の水分飽和状態が北方林の生態系に影響を及ぼしたと考えられます。湿潤環境が北方林の減少を引き起こすことを初めて明らかにした今回の研究成果は、これまで森林減少の原因と考えられてきた気候の乾燥化だけではなく、シベリアにおいては湿潤化にも注意を払う必要性を示しました。今後は森林減少・気候変動の予測に貢献することが期待されています。
太田岳史 教授
太田岳史教授は、京都大学在学中に砂防(土砂災害を防ぐこと)の研究を始め、その後様々な研究機関にて融雪や地表の蒸発散を調査してきました。学生時代に出会った恩師とともにネパールやインドネシアへ現地調査に行った経験が、研究に魅力を感じるきっかけとなりました。1990年代初頭にまだほとんど研究されていなかったヤクーツク近郊の林に着目し、96年には観測タワーを建設、98年から現在に至るまで北方林の観測を行ってきました。水循環を軸とした研究を通して、森林衰退のプロセス解明に貢献しています。
今後の展望
ヤクーツクのような森林は,極相林にあると考えられます。それが周辺の環境が,乾燥や今回上で述べた湿潤により,どの程度まで今の森林状態が維持され,どの程度以上になると森林が崩壊されるのかを知らなければ何ません.そして,崩壊が進んだ後,どのような森林が成立するのかを予測することが大事になってくると思います。さらには,温帯林,熱帯林での同様の予測を行うことによって,地球上の森林の将来が知ることが出来ると思います。
これから研究を始める人へ
勉強だけではいけません.小生も,大学3年生まではテニス,登山に明け暮れました.そして,現在の自分があるのは,この間に培ってきた人間関係ですこの人間関係こそが,将来の君たちへのプレゼントと言えるでしょう。そして,"余裕が出来たなら勉強を始める"と言った態度が必要です。
参考
研究成果情報
関連研究成果
Ohta, T., K. Suzuki, Y. Kodama, J. Kobota, Y. Kominami and Y. Nakai(1999). Characteristics of the heat balance above the canopies of evergreen and deciduous forests during the snowy season. HYDROLOGICAL PROCESSES. 13. 2383-2394.
Ohta, T., Maximov, T.C., A. Dolman, A.J., Nakai, T., van der Molen, M.K., Kononov, A.V., Maximov, A.P., Hiyama, T., Iijima, Y., Moors, E.J., Tanaka, H., Toba, T., Yabuki, H. (2008). Interannual variation of water balance and summer evapotranspiration in an eastern Siberian larch forest over a 7-year period (1998-2006). Agric. For. Meteorol., 140: 1941-1953.