化学合成をシンプルに! 新規クロスカップリング反応でトリアリールメタンの世界最短合成に成功

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  • 2014/01/09

名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)のキャサリンクラッデン教授と南保正和特任助教は、医薬品等に用いられるトリアリールメタンと呼ばれる分子群を効率的に合成する新たなクロスカップリング反応を開発しました。この研究成果は125日付でAngewandte Chemie International Editionオンライン版に掲載されました。

トリアリールメタン群の分子は炭素原子1つに3つのベンゼン環が結合したものであり、色素や医薬品をはじめとする様々な有用な物質に使われています。しかしこの分子群の精密合成は難しく、構成している原子は全て同じでも結合の位置が異なる異性体が副生する場合があり、収率の低下や分離・精製が問題になります。これらを解決するため、パラジウムやニッケル触媒を用いたクロスカップリング反応が報告されていますが、触媒が空気や湿気に対して不安定であることや、目的物の合成にいたるまでの工程数が多くなるなどが課題とされてきました。

クラッデン教授と南保特任助教はいかにシンプルにトリアリールメタンを合成できるかにこだわり、新規クロスカップリング反応の開発に挑みました。その結果、3種類のパラジウム触媒を組み合わせることで、安価なメタン誘導体に連続的にベンゼン環を導入することが可能となり、わずか3段階で様々なトリアリールメタン類を効率的に合成することに成功しました。またこの手法を用いて抗乳がん作用を持つ化合物を最短工程で合成することにも成功しました。必要とされる原料や触媒は入手することが容易かつ大気下で扱うことができる点、多様な構造を持つトリアリールメタン群を少ない工程で合成できる点で、今回開発された合成法は非常に有用な手法として注目を集めています。今後は様々な化合物の合成に応用され、トランスフォーマティブ生命分子研究所における動植物のシステムバイオロジー研究を加速させることが大いに期待されています。

南保正和 特任助教

南保正和特任助教は学生時クロスカップリング反応に魅せられて有機化学の道を選びました。クロスカップリング反応は古典的な有機化学では達成できなかった化学変換を可能にし、現在の合成化学に革新をもたらした手法です。これらの研究はまだまだ未開拓な部分も多く、新たな反応が開発されることで原料入手から化学合成までさらに効率化・単純化される可能性を秘めています。現在、南保助教は世界トップレベル研究拠点プログラムの一つであるトランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)で、化学に限らず様々な分野に応用できる新たな反応の開発に取り組んでいます。

今後の展望

今回開発した手法によって、生物活性をはじめとする新しい機能をもった分子群の発見につながると考えています。シンプルで分かりやすく、化学以外の分野の研究者にも実際に使ってもらえるようなNo.1の合成手法の開発を目指したいと思っています。

これから研究を始める人へ

たった1つの発見が将来世の中を大きく変える可能性があります。研究を通じて自分自身の手で新しい発見をつかんだ時は非常に感動的であり、それが研究の一番の醍醐味だと思います。そのチャンスは誰にでもあります。ぜひみなさんも挑戦してはいかがですか?





参考

研究成果情報
南保正和 特任助教情報

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