ベンゼンをフェノールに一段階で変換するバイオ触媒の開発
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- 2013/07/12
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻の渡辺芳人教授と荘司長三准教授を中心とした研究グループは、ベンゼンを簡単にフェノールに変換することができるバイオ触媒を開発しました。この研究成果は2013年5月7日にドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionのオンライン版に掲載されました。同号の口絵を飾り、様々なメディアで紹介されるなど、世界中から非常に注目されています。
フェノールは医薬品や染料などに用いられる非常に重要な合成化学原料です。これまでベンゼンからフェノールを作り出すためには、高温・高圧の条件下でベンゼンを反応させ、一度クメンと呼ばれる化合物に変換してからフェノールを合成する、という2段階を踏む必要がありました。この手法は危険な反応条件で行う必要がある上、多量の副産物を生成してしまうという問題を抱えていました。
今回研究グループは、特定の化合物が入ってきた時にだけ働く酵素に着目し、特定の化合物に構造のよく似たダミーの化合物(デコイ分子)を酵素に取り込ませました。その結果、酵素の誤作動を引き起こし、通常酵素とは反応しないベンゼンを、常温・常圧下で直接フェノールに変換することに成功しました。この手法は従来法に比べて酵素の変換にかかる時間とコストを大幅に削減することができる上、生成過程で副産物は生成されません。遺伝子操作で改変酵素を作り出すことが世界の主流である中、本手法は自然にある酵素の働きで安全かつ簡単に物質を作り出すことができます。今後、今回の研究で開発された手法で様々な物質を生成すること、また工業手法に応用することが期待されています。
荘司長三准教授
自然界には膨大な数の生体触媒が存在していますが、それらを人々の生活の役に立つ物質変換に利用するためには、生体触媒の仕組みを理解するとともに、如何にして利用するかの手法を考えることが重要と考えて研究を始めました。生体触媒の新しい利用手法を考案し、環境調和型の物質変換が可能な社会の実現を目指して研究をしています。
今後の展望
今後は、様々な物質変換を可能にする「次世代のデコイ分子」を開発するとともに、大腸菌などの菌体内で今回の反応システムを機能させ、実際の利用に耐える反応システムを開発していきます。
これから研究をする人へ
研究者には芸術家のように独創性を生み出す感性が必要かなと思っています。勉強ももちろん大事ですが、若い時にいろいろなことに挑戦して経験を積み、自らの感性を磨きあげて欲しいと思います。「迷ったら前に出ろ!」「常に前へ!」って僕はよく言われていました。磨きあげられた感性を持った次世代の若き研究者の挑戦を楽しみにしています。