ナノ技術をシンプルに:カーボンナノチューブ薄膜をワンステップで転写する新技術を開発
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- 2014/05/08
名古屋大学大学院工学研究科の大野雄高准教授を中心とした研究グループは、カーボンナノチューブ(CNT)薄膜の微細パターンをプラスチック上にワンステップで高精度に転写する技術を開発しました。この研究成果は4月1日付でACS Nanoオンライン版に掲載されました。
透明かつ電気を通す透明導電膜は、ディスプレイやソーラーパネルなど様々なエレクトロニクスの必須材料です。これまで透明導電膜として酸化インジウムスズ(ITO)が一般的に用いられてきましたが、ITOはレアメタルを含むためコストが高く、将来的な安定供給が危ぶまれることから代替材料の研究が盛んに行われてきました。CNT薄膜はITOの代替物として近年注目を集め、タッチパネルやディスプレイに実用化が始まっています。しかし基板上に薄膜を生成・パターン化する際に多くの化学薬品や高価な装置を必要とすること、煩雑なプロセスを踏む必要があることから、簡易なパターン化技術の開発が待ち望まれていました。
大野准教授はこれまで世界で初めて透明なプラスチック基板上でCNT集積回路の動作に成功、また純CNT製の集積回路の実現に成功するなど、CNT成膜デバイスの技術開発を世界的にリードしてきました。今回大野准教授の研究グループは、微細なパターンを形成したフィルターでCNTを集め、これをプラスチック基板に転写するだけで様々なCNTパターンを形成することに成功しました。この手法は大気圧・室温下でプラスチック基板にもCNT薄膜を生成できること、従来のプロセスに比べて化学薬品の使用を大幅に削減できること、CNTの材料使用効率が100%を誇ることなど様々な利点を持っています。さらに大野准教授らはこの技術を用いてプラスチック基板上にタッチセンサを作製し、文字を描く動作やマルチタッチ動作も可能であることを実証しました。この研究成果は、今後柔軟性を持つタッチパネル等の透明導電膜デバイスの製造に用いられ、省エネ化・省資源化、また二酸化炭素排出量の削減に貢献します。
大野雄高准教授
大野雄高准教授は、すでに究極といえるレベルまで発展した従来型エレクトロニクスの単なる延長線ではなく、カーボンナノチューブに代表されるナノ構造材料で発現する新しい物理現象(つまり新機能)を起爆剤として、日本の産業の原動力となる新規エレクトロニクスの創出を目指して研究に取り組んでいます。
今後の展望
新規デバイスの開発のみならず、人体や脳・意識とデバイスとのかかわり合いについても研究し、例えば、人体との親和性をもって身につけられるものや、環境に溶け込んで存在を感じさせない新しいエレクトロニクスを実現してゆきたいと思います。
これから研究を始める人へ
大学における工学研究の醍醐味は、他の誰も思いつかない新しい技術や、自分にしかできない物を創り出すことです。万物は自然の法則に則りますが、それをどのように役に立つ形にするかは、アイデア勝負です。ものごとを多方面から見る目を養い、アイデアを広げてみましょう。