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ハイライト論文

緑色蛍光タンパク質(GFP)の価値、より確かなものに

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  • 2014/12/01
  • 生命農学研究科
  • 瀬上紹嗣博士研究員
  • 前島正義教授
本記事の冊子版は、こちらからどうぞ:
nuresearch_j001.pdf

タンパク質に緑色蛍光タンパク質(GFP)を組み入れて可視化する方法は生命科学に不可欠です。名古屋大学大学院生命農学研究科の瀬上紹嗣博士、前島正義教授らの研究グループは、GFPを植物の液胞膜プロトンポンプに組み入れると、GFP同士が二量体を形成することにより膜を接着させる人為的な影響が生じ、バルブと呼ばれる液胞内構造が異常に形成されることを見出しました。そして、二量体化しないGFPを組み入れることにより、異常構造の形成を完全に抑制し、生細胞での液胞の構造がダイナミックに変化する姿を明らかにしました。
本研究成果は、2014年8月13日付け、国際誌The Plant Cell(プラントセル)のオンライン速報版に掲載されました(プリント版8月号;26:3416-3434)。→ 名古屋大学プレスリリース


科学技術発展の核となる基礎研究。 そこで使われる指標(マーカー)の見解が間違っていたら・・?  実にそれは想像を絶する危険な誤解を生むかもしれない。

「なんか、おかしいんじゃないか?」

名古屋大学大学院生命農学研究科の瀬上紹嗣博士らによる発見はこの疑問に始まった。


ノーベル化学賞に輝く下村脩博士が見出したオワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)は、分子を可視化するためのマーカーとして、生命科学の分野で広く使われている。タンパク質分子はそのままでは見ることができないため、GFPを研究対象のタンパク質に組み入れて、生物あるいは細胞に遺伝子導入し、分子の挙動を蛍光顕微鏡あるいは共焦点レーザー顕微鏡で観察する。


瀬上博士らは、数々の研究者らの報告、データを鵜呑みにするのではなく、様々な方向から丁寧に確認・検討することに心掛け、分子を可視化するGFPは細胞内の細胞小器官(オルガネラ)同士をくっつける力を持つことに気付いた。


*******


植物個体の生命を支える細胞、そこで活躍する『分子』を見るのは、名古屋大学大学院生命農学研究科の前島正義教授の研究グループだ。機能分子に焦点をあてて、生体膜での物質輸送とエネルギー変換のしくみを理解し、新しい知見から作物増産や栽培領域の拡大を目指す。


「分子を『見る』とは、どんな構造のもと、どう機能しているかを丁寧に見ること。そのとき初めて生理現象が分かり調節できる」

前島教授の研究姿勢は、ご自身が「自立した研究の第一歩となった」という液胞(図1)の膜に存在する未知分子の発見からも伺える(Maeshima and Yoshida, JBC (1989) 264: 20068-73)。


前島教授に発見され、同定されたその分子こそ、H+ピロフォスファターゼ(H+-PPase)だ。このタンパク質は、ピロリン酸を加水分解して得られるエネルギーを利用して水素イオン(プロトン)を液胞の中に能動輸送し、液胞内を酸性にする。結果、耐塩性植物にとって不可欠な環境を維持できるのだ。



図1.植物膜輸送システム図1. 植物の膜輸送システム(一部)模式図。植物の成長とともに、植物細胞内にある液胞は融合を繰り返し大きくなっていく。液胞膜には、様々なイオンが通過するためのトランスポーター、チャネルと、水素イオン(プロトン)を液胞内に送り込むための水素イオン能動輸送ポンプ(プロトンポンプ)が存在する。赤字は、前島教授の研究グループが取り組んでいる研究テーマ。(図は、説明資料として前島教授より提供)


「発見は道草する中で見つかる。自分の発見を研究として育てるんだ。」

同研究室の瀬上紹嗣博士らは、前島教授の指導の下、液胞膜上に存在するH+-PPaseに焦点をあて、植物の成長とともに液胞がどのように形状を変化させていくのか、またその役割を明らかにすることに挑んだ。


まずはH+-PPaseに緑色蛍光タンパク質(GFP)をつなぎ、可視化を試みることにした。


しかし、タンパク質の末端にGFPを繋げる一般的な方法ではうまく光らなかったため、タンパク質の内部にGFPを融合した。その際、H+-PPaseの機能を損なわないように、構造の自由が利く柔らかいポリペプチドでつなぐ工夫をした(図2)。




図2.液胞内GFP融合の概略図

図2. 液胞内GFP融合の概略図。H+-PPaseの機能を損なわないように、構造の自由が利く柔らかいポリペプチドでつなぎ、GFPを融合した。(図は、説明資料として瀬上博士より提供


共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、分子の機能を失うことなく可視化することができた。


一方で、液胞膜の蛍光が異様に強いバルブ構造(電球の様に見えることから)が確認された(図3)。




図3.葉肉細胞

図3. 葉肉細胞を共焦点レーザー顕微鏡で観察。緑:GFP、マゼンタ:葉緑体。(図は、説明資料として瀬上博士より提供


「バルブ構造」は複数の研究で報告されている機能未知の液胞内構造である。野生型の細胞でも見られたことから、天然に存在するものであると考えられていた。


しかし、瀬上博士らは様々な変異体を詳細に解析することで、このバルブ構造がGFP分子の量に依存して増加する不自然な人工的産物であることに気が付いた。GFP自身が相互に連結し二量体化する力は一般的に非常に弱いと考えられているが、それが膜同士をくっつける接着剤となっていることを疑ったのである。


その仮説に従い、次なる手段として、GFP同士が結合すると推測される部分をリジン(正電荷を帯びた長いアミノ側鎖をもつ)に置き換えた単量体GFPを作製し、それを使用することとした。




図4.子葉表皮細胞
図4. 子葉の表皮細胞を共焦点レーザー顕微鏡で撮影。一般的なGFPを融合した株では、人為的なバルブ構造(A-bulb)や、その元となる液胞同士の癒着が多数観察されたが、単量体化GFPではそのような構造は見られなかった。天然型のバルブ構造(N-bulb)は蛍光特性の違いから人為型と区別することができる。(図は、説明資料として瀬上博士より提供


「仮説通りだった」

通常のGFPは二量体を形成し、膜の癒着や蛍光度が異様に強いバルブ型構造を表したのに対し、単量体GFPではそれらは全く認められなかった。加えて、性質の異なる球状構造が数は少ないものの存在していたことから、天然型のバルブ構造が存在することも明らかにすることができた(図4)。




図5.液胞膜癒着

図5. 液胞膜癒着の模式図。通常のGFPを融合した株では、GFPが二量体となり液胞膜の癒着を促すが、単量体化GFPではそれが起こらず、人為的な膜癒着を防ぐことができる。(図は、説明資料として瀬上博士より提供



結果的に、GFPによる人為的な現象(図5)を発見、そして克服し、H+-PPaseが若い組織や糖含量の高い組織に多く存在し、それらの細胞内では多数の液胞が混み合う中で共存するという特徴を正確に見出すことができたのである。


このことは、生物種を問わず世界のタンパク質の可視化研究をしている科学者に伝えるべき内容であり、またGFPの価値をより確かなものにする貴重な成果であると言える。事実、生命科学の基礎研究分野において、自然な形の液胞を明瞭に観察できる液胞膜マーカーとして、世界中から問い合わせが殺到している。


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正しく観察するための一つの条件は、マーカーの質。GFP以外の蛍光タンパク質も同様に観察対象となる構造への人為的関与が否定できない。


「丁寧に見ていたから分かった。各ステージでの確認作業をしっかりやれば、思わぬ発見があるかもしれない。」

瀬上博士らが試みた方法は、他の蛍光タンパク質を用いた場合の参考になることも予想される。


マーカーの価値をより確かなものへ

 ― 基礎研究分野で活躍する研究者の功績が、科学技術を確かなものにする。

(梅村綾子)


研究者紹介

前島 正義(まえしま まさよし)氏 【名古屋大学大学院 生命農学研究科 教授】

1954年静岡県(現 浜松市)の生まれ。1981年名古屋大学より農学博士の学位取得。1984年米国カリフォルニア大学博士研究員、1984年名古屋大学農学部助手、1988年北海道大学低温科学研究所助手、1990年同研究所助教授、1994年名古屋大学農学部助教授、その後1996年から1998年まで基礎生物学研究所客員助教授を併任。1997年名古屋大学大学院生命農学研究科助教授(機構改革による)を経て、2001年より現職。

2011年名古屋大学評議員(生命農学研究科)、2012年名古屋大学農学部部長・大学院生命農学研究科長となり、今に至る。


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少年時代は川釣りを楽しんでいた、という前島氏。最近はその時間が取れずとも、ほっとできる空間=車の中で音楽を聴くことを楽しむ。
リフレッシュは大事。「丁寧に物事を見る」冷静な立ち位置を崩さず、研究員たちをリードする前島氏。これからも「寄り道をしながら」も価値が見出せる興味深いご研究を指導されていかれることだろう(梅)



瀬上 紹嗣(せがみ しょうじ)氏 【名古屋大学大学院 生命農学研究科 博士研究員】

2004年名古屋大学農学部応用生物科学科卒業、2006年名古屋大学大学院生命農学研究科修士課程修了、2011年名古屋大学生命農学研究科博士課程修了(農学博士)。2011年4月より、現職。




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小学生のころから植物が好き、という瀬上氏。植物なら木、雑草、何にでも興味がある。中でも一番好きな植物は、「どの季節に見ても美しい」というカエデ。自分で育てるなら、「変な植物がいい」と食虫植物への関心を語る。
研究でもプライベートでも、ミクロにもマクロにも、丁寧に注意深く観察されている瀬上氏。今後の更なるご活躍に期待したい(梅)


情報リンク集

Shoji Segami, Sachi Makino, Ai Miyake, Mariko Asaoka, and Masayoshi Maeshima
Dynamics of vacuoles and H+-pyrophosphatase visualized by monomeric green fluorescent protein in Arabidopsis: artifactual bulbs and native intravacuolar spherical structures.
The Plant Cell 2014 26: 3416-3434.
(First published on August 12, 2014; doi:10.1105/tpc.114.127571)

Maeshima M and Yoshida S
Purification and properties of vacuolar membrane proton-translocating inorganic pyrophosphatase from mung bean.
The Journal of Biological Chemistry 1989 264:20068-73.

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