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ハイライト論文

「刺激応答性」で利用範囲拡大、全く新しい高分子ゲルの開発

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  • 2014/12/11
  • 工学研究科
  • Abu Bin Imran特任助教
  • 竹岡敬和准教授
本記事の冊子版は、こちらからどうぞ:
nuresearchj_002.pdf

名古屋大学大学院工学研究科 竹岡敬和准教授等は、架橋点が自由に動くことのできる架橋剤を開発し、それを用いて高分子ゲルを作ると、高分子ゲルが非常に高い靱性と伸張性を示すことを明らかにしました。また、この架橋剤を用いて調製した刺激応答性高分子ゲルの応答速度は、従来の高分子ゲルに比べて飛躍的に速くなることも分かりました。
従来の高分子ゲルは、力学的な脆さや応答の遅さが原因となり、その刺激に応じた体積や表面の変化を利用した人工筋肉、ドラッグデリバリーシステム、センサー、再生医療用の培養床としての実用化が困難でした。本研究結果から、今後、刺激応答性高分子ゲルの上記の目的への利用が期待できます。
本研究成果は、2014年10月8日発行(英国時間)、英国の国際学術雑誌『Nature Communications』誌(電子版)に掲載されました。名古屋大学プレスリリース


―ひっぱって、まげて、ねじって、押しつぶして― どんな刺激にも応える「ゲル」が、ここ名古屋大学で生まれた。

ソフトコンタクトレンズ、おむつ、写真のフィルム、グミ、豆腐、・・

私たちの生活に馴染み深いものばかりだが、どれもが「ゲル」の産物である。


「東アジアって、ゲル状の食べ物が多いんですよ」

文化とサイエンスの共生が食べ物にも表れるように、日本はゲル研究が世界でもトップクラスである。名古屋大学大学院 工学研究科の竹岡敬和准教授の研究グループは、まさにそこで高分子ゲルの発展をリードする。


高分子ゲルとは、高分子鎖が架橋されて3次元の網目構造を形成し、その隙間にたくさんの溶媒を保持して膨潤したゲルのことをいう(図1)。高分子ゲルは誰でも簡単に調製できることに加え、分子ふるい、液体保持、振動吸収などの様々な機能を示すため、多くの分野で実用化されている。



図1.高分子ゲル(膨潤)模式図

図1.ゲルの網目構造の模式図。隙間に溶媒を保持して膨潤する様子。



しかし、ゲルは既に身近に使われているものの、未だ「もろさ」を克服しなければ、人工筋肉、ドラッグデリバリーシステム、センサー、再生医療の培養床といった、より高度な場面での利用は難しい。


竹岡敬和准教授 及びAbu Bin Imran特任助教ら研究グループは、新しく開発した架橋点が自由に動く架橋剤を利用し、従来通りの簡単な調製方法でありながら、高分子ゲルに高い刺激応答性(伸張性や粘り強さ)を持たせることに成功し、更なる実用化へ向け第一歩を切り出した。


*******


「私はもともとバイオマテリアルの研究をやっていたんです」

竹岡准教授は、学生時代、医用工学の分野でドラッグデリバリーシステムに使われる高分子ゲルの開発に努めた。薬の表面加工にゲルを用いれば、例えば「発熱したときだけ薬を出す」といった具合に、薬剤を体内の効かせたいところに効かせたり、副作用を抑制したりできる。


体内の薬物分布をコントロールするためには、高分子ゲルでも、刺激応答性のある柔軟なゲルが必要である。


これまでも、粘土質と高分子を混ぜ合わせたゲルの開発や、硬い高分子からなる第1次ネットワークと柔らかな第2次ネットワークを混ぜ合わせたゲルの開発もあった。しかし、前者の場合は、ネットワークを作るための架橋点は水素結合でつながれているため、水の中では次第にふやけてしまい、後者の場合は、繰り返し使用するとボロボロになってしまう、という問題点が残る。実に、研究が盛んになってから約30年を経た現在でも刺激応答性のある柔軟なゲルを実用化した例は少なく、その研究の難しさが伺える。


「ゲルに光機能を導入する研究を行っていたので呼ばれました」

竹岡准教授は、構造色(ものの構造に基づく発色)にも興味を示す。様々な刺激に応答したゲルの体積変化から、光のブラッグ反射を利用して、環境変化を色で知らせるセンサーも展開。ソフトマテリアルと構造色の両分野での専門性が強みとなり、名古屋大学大学院工学研究科の関隆広教授、および、東京大学大学院 新領域創成科学研究科 伊藤耕三教授と共同研究をするようになった。


伊藤教授の研究室では、架橋点が自由に動くという三次元高分子網目構造を発明(Okumura and Ito, Adv. Mater. (2001) 13: 485-7)、そして柔らかく強い高分子材料の技術を開発する。その特許取得から、アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社(http://www.asmi.jp/)を設立し、滑車効果を示す新規材料としてスライドリングマテリアル(図2)を提供している。




図2.スライドリングマテリアル図2. スライドリングマテリアル(図は、アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社より提供)



スライドリングマテリアルは、直鎖状高分子「ポリエチレングリコール(PEG)」と環状分子「シクロデキストリン(CD)」、そして端にストッパー分子「アダマンタンアミン」の3つの材料から構成される分子の複合体(超分子)「ポリロタキサン(PR)」構造(Harada et al. Nature (1992) 356: 325-7)からなる三次元高分子網目である。条件を選べば、CDがPEG上を自由に動ける、という滑車効果が期待できる。


「このPRを架橋剤に使えば、刺激応答性高分子ゲルを構成する高分子網目にも滑車効果が導入できる。」

竹岡准教授およびImran特任助教らは、柔軟な力学特性を示す刺激応答性高分子ゲルの調製に向けて、架橋としてのPRの開発に取り掛かった。


Imran特任助教は、まずPRを反応性のビニル基で修飾し架橋剤(HPR-C)を作った(図3)。この架橋剤、および、温度応答性ポリマーとなることが知られているN-イソプロピルアクリルアミド(NIPA)を水に溶かして水溶液を作った。そこへゲル化反応の開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)、および、反応促進剤であるテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を加え、高分子ゲルNIPA-HPR-Cを調製した。



図3.架橋剤(HPR-C)の合成

図3. 架橋剤(HPR-C)の合成(図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



しかし、得られた高分子ゲルは、PRの誘導体を架橋剤に用いたにも関わらず、「もろさ」を示す状態であった。滑車効果が発揮されていないのである。


「最初は落ち込んだ。でも、あきらめない」

Imran特任助教は、PRのような架橋点が動く場合の高分子ゲルについて、環境に応じたその体積変化について調べてみようと考えた。高分子ゲルは環境(例えば、温度や溶媒組成など)を変えると、それに応じて高分子ゲルを構成している高分子鎖が広がったり縮んだりする(つまり、高分子ゲルの体積が変化する)。一般に、「イオン基」を導入した大きく膨らむ高分子ゲルがその現象を示すことが分かっている。


Imran特任助教は、イオン基を有するアクリル酸ナトリウム(AAcNa)を、上記の高分子ゲルを調製する際に少量加えて高分子ゲルを作ってみた(図4)。



図4.高分子ゲルを調製図4. 可動性の架橋剤を用いて高分子ゲルを調製(図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group


すると、得られた高分子ゲルは、非常に柔軟で、従来の高分子ゲルと比べて十倍以上も良く伸び、カッターでもなかなか切れない(図5)。



図5.高分子ゲル+刺激

図5. 高分子ゲルに刺激(伸ばす、押しつぶす、ひねる、結ぶ、カッターで切る)を与えた様子図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



イオン基が高分子網目に導入されたことで、高分子ゲル内にイオン基の対イオンによる浸透圧が生まれ高分子網目全体が膨張するようになった。それに伴い、架橋剤として用いたHPR-Cが網目中で大きく伸びたことによって、架橋点が自由に動くようになったと考えられる(図6)。



図6.膨張したゲル図6. 膨張した高分子ゲル図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



さらにImran特任助教は、刺激応答性の高分子部分にイオン基を導入しなくても、PRに直接イオン基を導入すれば良いのではと考えた。そうすれば、刺激応答性高分子の性質を変えずに、滑車効果のみを刺激応答性高分子ゲルに付与することが可能になる。


早速、イオン性をもつPRを作製し、先ほどと同様にビニル基を修飾した架橋剤(iPR-C)を作った(図7)。



図7.架橋剤(iPR-C)の合成

図7.架橋剤(iPR-C)の合成(図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



イオン性のAAcNaを導入しなくとも、NIPAとiPR-Cのみから高分子ゲルNIPA-iPR-Cを作り、仮説通り、高分子ゲル内の電荷は架橋剤の周りにのみ集まる(図8)ことで、刺激応答性高分子の性質を変えずに、滑車効果のみを高分子ゲルに付与することができたのである。




図8.NIPAとiPR-Cのみからできた高分子ゲル内の電荷の様子
図8.NIPAとiPR-Cのみからできた高分子ゲル内の電荷の様子図は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



ゲルなのか、ゴムなのか、目を疑うほどの「刺激応答性」高分子ゲルをここにお見せしたい(動画)。



滑車効果が発揮されていないゲル(動画は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group


可動性の架橋剤(HPR-C)を用いた高分子ゲル(動画は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group


可動性の架橋剤(iPR-C)を用いた高分子ゲル(動画は、 Abu Bin Imran et al. Nature Communications (2014) 5: 5124 Copyright © 2014, Rights Managed by Nature Publishing Group



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「小さい男の子でも作れちゃうよ」

高分子ゲルは、誰にでも作れる簡単な操作で調製できることもポイントの一つ。


環境の変化や刺激に対して、自らの体積を速く大きく変化させることができる刺激応答性高分子ゲルの開発は、いよいよ応用に向けて稼働し出す。


全く新しい「刺激応答性」高分子ゲル、利用範囲拡大へ

― 科学技術の進歩が「手に取って」見えた。

(梅村綾子)


研究者紹介

Imran氏(左)と竹岡氏(右)

竹岡 敬和(たけおか ゆきかず)氏【名古屋大学大学院 工学研究科 准教授】

1996年上智大学より工学博士の学位取得。1996年上原生命科学記念財団ポストドクトラルフェローとしてマサチューセッツ工科大学物理学科にて博士研究員、1998年横浜国立大学工学部助手を経て、2004年より現職。

1995年度JORGE HELLER Journal of Controlled Release(米国薬物送達学会) 最優秀論文賞;
日本MRS学会 2000年度奨励賞、2001年度奨励賞;
財団法人「手島工業教育資金団」手島記念研究賞(手島工業技術研究賞)(2001);
2007年度コニカミノルタ画像科学奨励賞;
2009年度花王研究奨励賞;
2013年度永井科学技術財団学術賞。


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指導の立場にあっても「直感を大切にしていきたい」と自ら研究に励む竹岡氏。学生や研究員の立場に近づけるように、との心掛けは、実は息抜きでもあるそうだ。
多くの出会いやつながりを大切にされて、研究をぐんぐん進める竹岡氏。これからも勢いよく、興味深いご研究を手掛けていかれることだろう。構造色のご研究もいつかここで紹介させて頂きたい(梅)



Abu Bin Imran氏【名古屋大学大学院 工学研究科 特任助教】

1980年バングラデシュ Comillaの生まれ。2004年Shahjalal University of Science and Technology化学科卒業、2006年同大学同学科修士課程修了。2009年名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了(工学博士)。その後、名古屋大学NEDOプロジェクトの博士研究員を経て、2011年より、Bangladesh University of Engineering and Technology (BUET)化学科で助教を務める。2014年より、名古屋大学での現職を併任。

2010年 材料バックキャストテクノロジー(MBT)センター研究奨励賞受賞。


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「日本は第二の故郷です」とにこやかに話すImran氏。休暇は、趣味のカメラとともに旅行に出掛け、日本滞在を心行くまで楽しむ。
「バングラデシュは、日本ほど研究室が充実していない。ここで貪欲に研究したい」と終始笑顔で語るImran氏。これからも、高分子ゲルの様に粘り強く、伸び伸びと研究を楽しまれていくことだろう。今後の更なるご活躍に期待したい(梅)


情報リンク集

Abu Bin Imran, Kenta Esaki, Hiroaki Gotoh, Takahiro Seki, Kohzo Ito, Yasuhiro Sakai and Yukikazu Takeoka
Extremely stretchable thermosensitive hydrogels by introducing slide-ring polyrotaxane cross-linkers and ionic groups into the polymer network.
Nature Communications 5: 5124(2014).
(First published on October 8, 2014; doi:10.1038/ncomms6124)

Y. Okumura and K. Ito

The polyrotaxane gel: A topological gel by figure-of-eight cross-links.

Advanced Materials 13: 485(2001).
(First published on April 6, 2001; doi:10.1002/1521-4095(200104)13:7<485::AID-ADMA485>3.0.CO;2-T)

The molecular necklace: a rotaxane containing many threaded α-cyclodextrins.

Nature 356: 325(1992).
(Published on March 26, 1992; doi: 10.1038/356325a0)

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