数理ウェーブ 2012年度

平成25年3月23日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00~15:00 田島 裕康 (東京大学理学部物理学科・院生)「量子もつれの測り方、使い方」

離れた二つの場所にある箱の中身の片方を「見る」事で、もう片方の箱に物理的な一切の操作を加える事無く、中身を自由に決められる-量子力学の世界では、古典力学の世界では起きないこうした「もつれ現象」がしばしば起こります。このような「もつれ」を系が「どのくらい持っているか」を如何にして測るか、という研究が、この十数年で急速に進み、「量子もつれ」が物理の重要な量であるエントロピーと深い関係を持つ事が分かってきました。同時に、「量子もつれ」を使うことで、それなしではできない様々な操作が行える、ということも分かってきました。こうした量子もつれの測り方と、その応用についてお話ししたいと思います。

②15:15-16:15 大沢 健夫(名古屋大学多元数理・教授)「岡理論の遠景」

執筆中の著書「多変数関数論の建設」(仮題)の第一章と第二章の原稿に沿って、大数学者岡潔(1901-78)の数学を、第七論文「二三の算法的概念について」の結論を中心に、論文にまつわるエピソードを交えながら紹介します。

平成25年1月26日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-15:00  松岡 学 (桑名北高校・教諭)「数の体系を拡げるーアルチン環の世界」

整数全体の集合のように足し算と掛け算の定義された集合を環といいます。引き算は足し算の逆元とみなします。割り算は必ずしも出来なくてもかまいません。実数を成分とする2次正方行列全体の集合を考えると、和や積を定めることができ環になります。整数は積に関する交換法則が成り立ちますが、行列は成り立ちません。このように、環によって積の仕組みが異なることもあります。環の仕組みを考える際、「有限であること」を組み込んでおくと、便利なことがあります。そのような有限性の条件を満たす環の代表として、アルチン環やネーター環という環があります。今回は2次の正方行列を題材として、それらの代数的な仕組みやアルチン性を調べてみようと思います。

②15:10-16:10 大沢 健夫 (名古屋大学多元数理・教授)「科学の原動力」

「数学セミナー」に連載中の「ポアンカレとの散策」の最終回、「科学の原動力」の原稿に沿って、ポアンカレの数学観、科学観、そして倫理観についてお話しします。数学の話題としては、曲面上の閉測地線の本数についてのポアンカレ予想とその解決について調べてみます。これは惑星の軌道の安定性に関わる問題です。

12月22日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-15:00 江尻 典雄 (名城大学理工学部・教授)「サイクロイド曲線について」

微分積分学が作られた瞬間に次の問題がヨハン・ベルヌーイによって提出された「問題(最速降下線) A地点からB地点へもっとも最短時間で降りられるすべり台がスリルがありそう、その形を求めてみよう」(こんなことを言ったかどうかはわかりません)。即座にニュートン、ライプ ニッツ、ヤコブ・ベルヌーイ、ロピタルによってそのすべり台の形はCycloidであることが示されている。リーマン幾何では  「Cycloidは曲がった世界の"直線"である」 となります。

②15:15-16:15 大沢 健夫(名古屋大学多元数理・教授)「書かれなかった不等式」

今年は19世紀後半から20世紀初頭にかけて大活躍した数学者ポアンカレの没後100年ということで、ポアンカレの数学についての著作がいくつか出ました。ポアンカレは、位相幾何学の基礎を築いたことで有名ですが、数理物理だけでも超一流の業績を上げています。今回はポアンカレが一般向けに書いた「科学の価値」をひもときながら、解析学や数理物理で基本的な「ポアンカレの不等式」をめぐる四方山話をしたいと思います。

11月24日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-15:00 伊師 英之(名古屋大学多元数理・准教授)「幾何学における最大値問題・数学コンクールの問題から」

今年のジュニア数学コンクールの第3問は、与えられた凸多角形に含まれる三角形のなかで面積が最大のものについての問題でした。一般に、与えられた条件の中である量を最大または最小にするという問題は実用上非常に重要で、数学的にも内容の深い理論につながっています。この講演では、コンクールの問題をはじめとする幾つかの最大値問題をとりあげ、その本質を探ります。

②15:10-16:10 大沢 健夫(名古屋大学多元数理・教授)「マッチング」

今年のノーベル経済学賞に輝いたシャプレイは数学者でもあり、学位論文で導入したシャプレイ値は「安定配分」の決定に有用で、ゲーム理論で重要です。今回は経済学者のロスとともに、理論と実践両面の業績が評価されました。実践面で評価されたのはマーケットデザインにおけるマッチング問題の実効的な解決法ですが、その先駆けとなる論文は、シャプレイが1962年に経済学者のゲイルと共同執筆してアメリカの数学専門誌に載せたものです。二つの定理とその証明からなるこの論文を何とか読んでみたいと思います。

10月27日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00ー14:10 本年度の日本数学コンクール論文賞の問題と選考について大沢 健夫(名古屋大学多元数理科学研究科・教授)

②14:15-14:45 数学コンクール論文賞受賞者による研究発表 山本 悠時(東海高校・1年生)「球面上の最遠点についての解法」

③15:00-16:00「距離の定義づけについて」 大沢 健夫(名古屋大学多元数理科学研究科・教授)

距離といえば普通は二つの点がどれだけ互いに離れているかを表す数で、平面上では線分の長さ、球面上では円弧の長さになります。大きさのある二つの物体の間の距離だと、一番近い2点をとって測ります。しかし、このやり方を単純に拡げただけでは不便な場合もあります。そのような例をあげながら、いろいろな距離の測り方について考えてみます。

6月23日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-15:00「ルーペ魔方陣について」 東川 和夫(富山大学理学部・教授)

数 0,1,2,..., 47,48 を7×7の正方形のますに並べて縦横斜めの和がどこでも同じになるものを7×7の魔方陣といいます。その和は、(0+1+・・・+48)÷7=168 になります。ルーペとは虫めがねのことです。方陣のルーペ性とは、方陣のどこに2×2の小正方形のますにある4個の数を取っても(そこに虫めがねを当てても)それらの数の和 A は、その正方形から右に1つ下に2つ離れたと ころ に ある横3個の数の和を B とすれば、A=168-B と計算できるという性質です。ここで、小正方形とか、横3個の形が7×7の正方形からはみ出たときは、境界で切り取って反対側にくっつけて考えます。この講演では、ルーペ方陣を作る簡単な方法を話します。また、ルーペ方陣が次のおもしろい性質をもっていることについても話します。6種類の平行四辺形があり、それを方陣のどこにおいても、それぞれの対頂点にある数の和同士が等しくなる。

②15:10-16:10「関数をつなげる話」 大沢 健夫(名古屋大学多元数理科学研究科・教授)

前回は、関数の世界にもワイアシュトラスの乗積定理という素因数分解があることを述べました。これは関数を基本的な要素に分解する話でした。今度はそれとは逆に、要素をつないで関数を作る話です。これもワイアシュトラスの理論の一部なので背景の説明が長くなりますが、結論は簡単です。この問題は多変数関数論の発展のきっかけとなりました。それについても述べたいと思います。

5月26日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-16:00「量子暗号とその模擬実験」 林 正人(名古屋大学多元数理科学研究科・教授)

わたしたちの身の回りのものは、原子や電子、さらには、光の粒子である光子などの、波動性を持つ粒子が結合して成り立っています。例えば、光子のもつ波動の向きは、サングラスや携帯電話の画面に使われる偏光板によって、調べることができます。このように波動性と粒子性の双方の性質を合わせ持つ性質は、量子性と呼ばれ、これまでの情報処理では、その不思議な性質から情報処理を乱すものとして避けられていました。しかし、この性質を積極的に用いることで、これまで情報処理では、実現できなかった情報処理が可能となることが分かってきました。今回の数理ウェーブではこのような情報処理の1つとして近年、注目を浴びている量子暗号について紹介します。量子暗号では、情報の流出そのものを防ぐことが可能であるため、どのような強力なコンピュータが現れても盗聴されることはありません。今回は、量子暗号の原理について説明し、偏光板を使った道具で、模擬的に量子暗号の実験を再現します。この模擬実験を通じて、量子暗号の原理について体験します。  (5月に著書「量子情報理論入門」を出版予定)

4月28日開催 日本数学コンクールフォローアップセミナー 数理ウェーブ

※このイベントは終了しました。

①14:00-15:00「 分数の循環小数展開について」 北岡 良之(名城大学理工学部・教授)

分数が循環小数展開されることはかなり知られたことであるが、その性質について踏み込んで書いた教科書は一冊しか知らない。例えば、1/7=0.142857...で142857が循環するが142857を分割して加えると 142+857=999 14+28+57=99 1+4+2+8+5+7=9x3 となることなど殆ど注意されていない。循環小数展開についていくつかの性質を述べた後、時間があれば分数の循環小数展開といった簡単なことでも、見方によっては現在得られている最高の結果をはるかに超えた予想にまで到達することを紹介する。

②15:10-16:10「数の分解と関数の分解」 大沢 健夫(名古屋大学多元数理科学研究科・教授)

すべての自然数が素数の積に分解できる(素因数分解)ということは数についての深遠な理論の出発点です。分数の部分分数分解はこれと対を成しています。多項式の因数分解の公式や指数関数や三角関数についてのいくつかの公式も、素因数分解や部分分数分解と似たものと思え、19世紀にはその視点から関数の理論の基礎が作られました。岡潔の多変数関数論はそれをさらに発展させたものです。このようなことを例を中心にお話しします。