理学研究科伊丹研究室博士2年植田桐加さんが「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を受賞

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  • 2011/11/25

理学研究科伊丹研究室博士2年植田桐加さんが「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を受賞


図1.ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞を受賞した植田さん。


図2:ベンゼン

「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」を名古屋大学大学院理学研究科伊丹研究室博士2年植田桐加さんが受賞しました(図1)。 「ロレアル-ユネスコ女性科学者日本奨励賞」は、世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本法人、日本ロレアルが日本ユネスコ委員会の協力のもと、博士課程在籍・進学予定で専門知識・着想力等の観点から日本の将来を担うと目される女性科学者の研究を支援するために設けたものであり、日本全国の大学から物質科学の分野より2名、生命科学より2名しか選ばれない 賞になります。その中で、植田さんは物質科学の分野において、「新触媒を用いた芳香環連結反応の開発と薬理活性物質や機能性有機材料の応用」という研究内容で受賞しました。

芳香環とは、図2に示すベンゼンのような環状に炭素が結合した構造をもつ化学物質です。芳香環を部分構造にもつ物質は数多く、医薬分野や電子材料など産業的に広く使用されています。逆に言えば、芳香環に様々な化合物を付加・連結させることで産業的に有用な物質を作り出すことができるということになります。しかしながら、芳香環に対して化合物、特に別の芳香環を連結させることは簡単にいきません。そのような反応を起こすためには、反応の前後で自身は変化せずに反応を促進させる、いわば応援団のような存在である触媒と呼ばれる物質が必要になります。通常、目的の物質を生成するためには、多くの中間的な化学物質を経由し、その度に触媒反応を用いねばならないケースが多くなっております。このため、効率的に目的物質を生成するためには、なるべく少ない中間物質を経由して、言い換えればなるべく少ない回数の触媒反応により行う必要があります。また、芳香環上の指定する位置に別の芳香環を付加・連結させることも重要です。しかし、このような条件を満たす触媒を開発することは容易ではありません。

植田さんの研究は、この難問に挑み、中間物質をほとんど経由せず効率的に芳香環の指定する位置に別の芳香環を付加させて目的の物質を生成する触媒を開発することに焦点をあてています。すでに、芳香環であるチオフェン (図3)とヨウ素化合物(ヨウ素とチオフェン に付加したい別の芳香環との化合物)の化学反応において、チオフェンの指定位置に所望する芳香環を付加させるときに、反応を直接導き、効率的に働く画期的な新触媒を開発することに成功しています。チオフェンは図3のような化学物質です。

植田さんの研究は、この難問に挑み、中間物質をほとんど経由せず効率的に芳香環の指定する位置に別の芳香環を付加させて目的の物質を生成する触媒を開発することに焦点をあてています。すでに、芳香環であるチオフェン (図3)とヨウ素化合物(ヨウ素とチオフェン に付加したい別の芳香環との化合物)の化学反応において、チオフェンの指定位置に所望する芳香環を付加させるときに、反応を直接導き、効率的に働く画期的な新触媒を開発することに成功しています。チオフェンは図3のような化学物質です。


図3:チオフェン

染料、医薬品、農薬などチオフェンを部分構造に持つ化成品は多く、また、チオフェンが複数連結したポリチオフェン類は伝導性を示すことから有機金属や有機半導体等の研究対象としても注目されています。中でも、指定する芳香環の位置に所望する物質を付加させることが重要とされますが、従来は、3段階の触媒反応を経て生成していました。植田さんは1回の触媒反応だけで芳香環の指定部位への連結を実現する触媒を開発することに世界で初めて成功しました(図4)。そして、開発した触媒を応用した手法によりアルツハイマー病の治療薬として期待される化合物の合成や有機材料として利用可能な テトラアリールチオフェンの合成が効率的に行えることを示し、研究の実用性も示しました。




上の四角で囲んだ部分が、新触媒を利用したチオフェン(右上)の指定位置(矢印)にArを付加する反応。下が従来の反応。上は、1回の反応で済んでいるのに対して、下は3回もかかっている。

受賞について、植田さんは、「物質科学の分野で2名しか選ばれない 賞をいただき光栄に思います。研究者として活躍する女性がまだまだ少ない中で、これから物質科学の分野に進もうと考えている女性に勇気を与え、その背中を後押しできるような存在になれるよう、研究を頑張っていきたいと思います。」とコメントしております。目標とする化学者を聞いたところ、「一人は恩師である名古屋大学伊丹健一郎教授、そして、もう一人はノーベル化学賞を受賞した北海道大学鈴木章教授です。伊丹先生を選んだのは、学部生の頃、伊丹先生の授業を受けて、化学という学問が、世の中に存在する様々なものに関係しているということが分かり、私もこの分野に進みたいと決意させてくれ、研究室に入ってからも研究者として教育者として常に憧れの存在であるからです。鈴木章先生は、ノーベル化学賞の受賞理由になった鈴木カップリングをはじめとする研究により、数多くの医薬品を世の中に送り出すなど、社会に大きく貢献されておられます。私も鈴木先生を目標に世の中に役立つ研究成果を生み出していければと思い研究を進めております」とのことでした。そして、研究内容と自身の研究者としての将来展望については、「今回、開発した触媒のように、実際に社会に役立つモノを生み出すような研究を基礎・応用両面から進めていきたいと考えています。自身のキャリアパスについては、国際的に活躍し、世界中の化学者と交流できる研究者になりたいです。以前、ドイツに留学するなど海外で他国の化学者と話す機会がありましたが、分野が異なる人とも話したりして、大きな刺激になりました。日本だけなく世界中の化学者と交流し自身のキャリアレベルを上げていき、また、自身の研究が幅広く世界で使われるよう頑張っていきたいです。」と語りました。

Affiliated Researchers

GCOE Program name

Reference
  1. Kirika Ueda, Shuichi Yanagisawa, Junichiro Yamaguchi, and Kenichiro Itami,"A General Catalyst for the b-Selective C-H Bond Arylation of Thiophenes with Iodoarenes", vol.49, pp.8946-8949, Angew. Chem. Int. Ed., 2010.

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