サッカーに見る物理法則: プロサッカーの試合にフラクタル性を発見

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  • 2014/03/07

名古屋大学総合保健体育科学センターの山本裕二教授を中心とした研究グループは1、プロサッカーチームの試合展開を数学的に解析し、攻守の切り替えに単純な物理法則が存在することを発見しました。この研究成果は2月19日付でEuropean Physical Journal Bオンライン版に掲載されました。

これまでスポーツ科学では選手の動きを心理学的・行動学的にとらえる研究や、スコアや対戦履歴を確率論的にとらえる研究が行われてきました。一方、チーム全体の動きを俯瞰し、集団行動解析の観点から試合を解析する手法はあまり用いられてきませんでした。

山本教授の研究グループは個人の行動に注目するのではなく、チーム全体を一つの生き物のようにとらえ、試合の展開を解析しました。2008年のFIFAクラブワールドカップの準々決勝(ガンバ大阪vsアデレードユナイテッド)と2011年Jリーグの1戦(浦和レッズvs横浜Fマリノス)の2試合を俯瞰的に撮影し、個々の選手の守備範囲から割り出したチームの支配領域の境目(チーム前線位置)と、ボール位置の関係(動画を参照)を表す時系列グラフを作成しました。その結果、時系列グラフにはフラクタルパターンが現れることがわかりました。フラクタルパターンとは、全体から一部を切り取った時、その一部が全体と同様の形を持つものを指します。つまり、試合中のある5分間に現れる動きと、その一部の1分間に現れる動きは時間軸やスケールは異なるものの酷似しており、空間も時間も超えて同じような特徴を持っていることがわかりました。また同グループの解析により、ある瞬間の動きがそれ以降の動きに強く影響する最長の時間(持続時間)は、プロサッカーの試合においてはおよそ30秒であることが明らかになりました。現在同研究グループは解析対象を他の集団球技に広め、様々なスポーツに現れる法則を解明すること、またスポーツの研究で得られた集団行動の知見を災害時の対応に生かすことを目指し、研究を続けています。また、今後データ収集技術や解析技術が進み、リアルタイムで選手の座標がわかるようになれば、その情報を使ったサービスが可能になるかもしれません。この研究成果は今後スポーツ科学の範疇を超えて様々な分野で応用されることが期待されています。

1. 山梨大学 木島章文准教授、島弘幸准教授、北海道大学横山慶子博士研究員との共同研究。科学研究費補助金の助成を受け実施。

山本裕二教授

私たちは予測不能な環境の中で,大変複雑な運動をいとも簡単に行いながら毎日の生活を送っています。その複雑に見える人間の身体運動に潜む規則性を求めて,テニス,サッカー,鬼ごっこ,剣道など,スポーツ場面での行動に着目し研究を進めていますそこにはどうも,いくつかの数少ないパターンがあり,私たちはその数少ないパターンを次々と切り替えながら,複雑に見える動きを生み出しているようです。この単純な規則から生み出される複雑な動きに,動きの美しさを感じ,私たちは魅了されます。

今後の展望

様々な自然現象,生命現象と同じ規則性が,人間の行動や集団行動にも潜んでいるかもしれません.スポーツを通して見える人間の複雑な振る舞いには,まだまだ多くの謎が残されています。そしてその謎を解き明かしていくことが,広く人間の理解に結びつくものだと信じています。

これから研究を始める人へ

私たちは,自分の振る舞いについて意外と気づいていないものです。からだの動きだけでなく,こころの動きにも目を向ければ,「当たり前」と思っていることが「当たり前」ではないと気づくこともあるのではないでしょうか.研究は,「できるか,できないか」ではなく,「やるか,やらないか」だと思います。

参考

研究成果情報
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