広がる有機の可能性: 導電性高分子の電気伝導メカニズムをミクロに解明

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  • 2014/01/28

名古屋大学大学院工学研究科 田中久暁助教を中心とした研究グループは、導電性高分子が高い電気伝導性を示すメカニズムを世界で初めて明らかにしました。この研究成果は20131211日付でAdvanced Materialsオンライン版に掲載されました。

高分子は多くの分子構造が数珠つなぎに連なった有機物であり、代表としてプラスチックが挙げられます。導電性高分子は軽量で柔軟、環境に優しい有機物の性質を持ちながら、金属のように電気を通す性質も持ち、次世代有機エレクトロニクス材料として非常に期待されています。これまで高分子に電流を流すことには成功していましたが、金属的な高い電気伝導性は高分子中のどのような構造から現れるのかはわかっていませんでした。

田中助教の研究グループは高分子に電流が流れる際の電子状態に着目し、電気伝導メカニズムの解明に挑みました。研究グループは、分子配列が整った結晶性の高い高分子PBTTTの薄膜にフッ化アルキシラン(FTS)を塗布し、PBTTT中の電子をFTSへ移動させました。その結果、PBTTT上にプラスの電荷が発生し、電子の流れが生じました。通常、PBTTT薄膜中の分子は基板に垂直な向きを取りますが、FTSを塗布したことによってごく少数の分子は横に倒れて基板に平行な状態になりました。研究グループはこの時PBTTT薄膜のどこで電流が流れているかを、電子の濃度や運動状態、分子の向きなどをミクロに解明できる電子スピン共鳴(ESR)法を用いて分析しました。その結果、垂直状態の高分子は規則的な配列を持ち、金属のように高い電流が流れる一方で、平行状態の高分子は不規則な構造のため電流が流れにくいことがわかりました。したがって、高分子の導電性は規則的な配列に基づく結晶性に依存することが明らかになりました。結晶性と金属的な導電性の関係を証明した今回の研究成果は、結晶をより大きくすること、高分子薄膜をより均一なものにすることでさらに導電性が向上しうることを示唆しています。今後はこの研究成果によって明らかになった知見が多様な高分子材料の高性能化につながること、また透明度を生かして太陽電池や有機ELの電極に応用されることが期待されています。

田中久暁 助教

電気を流す、太陽光で発電する、光る。有機物もこのような多彩な機能を示すことを学生時代に知ったことが、有機エレクトロニクス分野を志すきっかけとなりました。有機物の構造は無限と思えるほど多様ですが、わずかな構造の変化が驚くほど大きな材料の物性や素子の性能の変化として表れ、この分野の奥の深さと可能性を感じています。本研究で用いた電子スピン共鳴(ESR)法は、材料中の電荷キャリアの電子状態をミクロに明らかにすることができるため、多様な有機材料・デバイスの機能解明に役立つと期待しています。

今後の展望

本研究の結果、高分子の金属状態はその結晶領域で顕著に発現することが明らかになりました。また、微結晶のサイズを大きくし、高分子薄膜の均一性を向上させることが、高い伝導性を得る上で有効であることも分かってきました。これらの指針に基づき、今後、より高性能の有機エレクトロニクス素子が実現可能になると期待されます。

これから研究を始める人へ

どのような分野にでもあてはまりますが、一つの輝かしい成果の陰には、無数の失敗や試行錯誤が隠れています。なかなか思うようにいかないこともありますが、小さな発見・改善を繰り返し、研究が進展すると、とても充実感を覚えます。大きな成果が出た時の喜びは格別ですよ。





参考

研究成果情報
田中久暁 助教情報

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