不思議な有機化合物: 1つの物質の中で2つの電子状態が住み分けて存在することを発見

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  • 2014/01/06

名古屋大学大学院理学研究科岡崎竜二助教を中心とした研究グループは、ある有機化合物において導電状態と絶縁状態が広い温度範囲で空間的に住み分けて共存する現象を発見しました。この研究成果は1122日付でPhysical Review Lettersに掲載されました。

物質の状態が外界の温度によって大きく変化するように、物質の中の電子も温度に応じてその状態を変えます。水は温度を0℃まで下げると氷になり、水と氷は0℃においてのみ共存します。これと同様に、物質中の電子も、温度変化により導電状態(電子が水のように流れる状態)から絶縁状態(電子が氷のように固まった状態)へと変化することがあります。状態変化が起きる温度を相転移温度と呼び、一般的にこの温度以外ではどちらか一方の状態だけが現れます。

今回、岡崎助教はこれまでの常識を覆す相転移現象を発見しました。岡崎助教らは、大型放射光施設SPring-8で実験を行い、ある有機化合物において、-200℃から-273℃という非常に広い温度範囲で、電子が水のように流れる導電状態と電子が氷のように凍結した絶縁状態という2つの電子の状態が空間的に住み分けて存在することを観測しました。これは、1つの物質の中で、2つの異なる電子状態がせめぎあって存在する状況であり、少しの刺激で物質全体が一瞬のうちに導電体もしくは絶縁体のどちらかに変化するような非常に不安定な状態であると考えられています。電場や磁場といった外部刺激によって電気抵抗が大幅に変化するこの性質を利用することで、導電体と絶縁体、それぞれの機能を生かした有機エレクトロニクス材料の開発に繋がることが期待されます。

岡崎竜二助教

岡崎竜二助教は、物質中の電子が示す様々な物性の起源の解明や新しい機能的性質の探索を進めています。私たちのまわりには数えきれない程多くの物質がありますが、その多様な物性の起源の理解を通して、それらに潜む基本的法則や普遍性を明らかにすることが物性物理学の魅力の1つです。それを元にして新しい物質を設計することもできますし、よく知られた物質の中にも、私たちがまだ気づいていない新しい機能的性質が眠っているかもしれません。そのような面白さを感じながら、日々の研究を行っています。

今後の展望

なぜこのような現象が起こるのかを理解すること、空間的に住み分けた2つの電子の状態をどのようにコントロールして役に立つ機能として利用するかということが次の研究の目標です。

これから研究を始める人へ

自分の研究テーマを深めるのと同時に、他分野の研究にも幅広くアンテナを張りつつアイデアを拾いましょう。できると思うことは粘り強く、柔軟な考えで取組みましょう。人生は一度きり、時間は有限であることを忘れずに。





参考

研究成果情報
岡崎竜二助教 情報

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