電気を通すサファイア

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  • 2013/07/24

名古屋大学大学院工学研究科マテリアル理工学専攻の中村篤智准教授、松永克志教授らの研究グループは、絶縁体であるサファイアの内部に規則的な導電性配線を作り出し、電気を通すことに成功しました。この研究成果は7月5日付でACS Nanoオンライン版に掲載されました。

サファイアはアルミニウムの酸化物の結晶であり、非常に高い絶縁性を持つため通常は電気を通しません。また、化学的に非常に安定かつ高い硬度を持つことから、工業的に広く用いられてきました。

研究グループは原子レベルの研究で、絶縁体であるサファイアへの導電性付与に挑みました。サファイア結晶は非常に規則正しい原子配列を持っていますが、ところどころに構造の乱れがあり、そこには原子サイズの隙間が生じています。研究グループは転位と呼ばれるこの原子サイズの隙間に注目し、ここにチタンを流し込むことでサファイアの結晶内部にチタンからなる周期的な配線を数千万本作り出すことに成功しました。またそれらが高い電気伝導性を持つことを実証しました。さらに、研究グループは電気伝導のメカニズムを解明するため、配線内のチタンの電子構造を解析しました。その結果、配線内のチタンは価数3のプラスイオンであり、このイオンの性質によってチタン製配線は導電性を得ていることを突き止めました。

今回の研究は、サファイア内部にチタン製配線を自由自在に作り出すことに成功した点、また配線が電気を通すメカニズムを原子レベルで解析・解明した点で大きな注目を集めています。今後はチタン以外の元素や、サファイア以外の酸化物を用いて同様の手法を検証し、導電性配線を有する酸化物をさらに作り出すこと、また今回開発された手法で作られた導電性のサファイアが電子機器、磁気装置、光学素子装置などに応用されることが期待されています。

中村篤智准教授

結晶という言葉でイメージするものは何でしょうか.原子が規則正しく並ぶというイメージを持つ人は少数派で,普通は透明な水晶のような物体をイメージされると思います。私はどちらかと言えばその少数派の類いです.結晶中の原子の綺麗な並びと,たまに存在する原子の並びの乱れを見ると興味深く感じます。本研究は,そうした原子の並びの乱れを利用して,物質の特性を根本から変化させるという試みの1つです絶縁体だから電流を流せないという常識を崩すところが肝であり,本研究と同様に,既存のあらゆる物質の持つ物性は原子配列の制御でどのようにも変化する可能性があります。

今後の展望

「局所の原子配列の乱れを利用して,結晶が本来持つ物性に変革をもたらすことを狙う」という基本的な研究の路線は変わりません.現在,サファイア以外のいくつかの機能性結晶に,物性変化を起こさせる研究をしています。すでに,おもしろい結果も得られはじめています。

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参考

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