昆虫の"隠れた羽"

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  • 2013/05/01


名古屋大学の新美輝幸助教(生命農学研究科)と大出高弘博士(日本学術振興会特別研究員)らの研究グループは、これまで進化の過程で失われたと考えられてきた原始的な羽が、形を変えて現在も存在していることを世界で初めて発見しました。この研究成果は2013年3月14日に米国科学雑誌Science ExpressScienceのオンライン速報版)に、また4月26日発行のScienceに掲載されました。

現存する昆虫は胸部の2つ体節に2対4枚の羽をもっていますが、約3億年前の昆虫にはもっと多くの体節に羽が存在していました。従来、原始昆虫が持っていた多くの羽は進化の過程で失われたと考えられてきました。

これまでの研究で、各体節を特徴づける遺伝子の機能を阻害した場合、本来羽が存在しない部位にも羽が形成されることが確認されています。今回研究グループは、上記遺伝子を抑制した時、甲虫のどの構造が羽に変化するかを観察しました。その結果、前胸保護構造(物理的に体を保護する構造)と腹部突出構造(天敵への反撃を行う突出構造)が羽に変化することが判明しました。これにより、羽形成に重要な遺伝子はこれらの構造をつくるためにも必要不可欠であること、羽以外の構造が羽と相同な構造であることが初めて明らかにされました。今回の研究により、昆虫の原始的な羽は失われたのではなく、いろいろな形に変化してきたことがわかりました。この成果は化石昆虫から現生昆虫までの進化の過程に新たな視点を提示し、その解明に貢献しています。

新美輝幸 助教

全生物種の約50%を占める昆虫は、この地球上で最も繁栄する生物群と言っても過言ではありません。昆虫の繁栄をもたらした主な要因として、翅の獲得と多様化が挙げられます。本研究は、昆虫翅の起源や多様化をもたらした進化プロセスを分子レベルで解き明かすことを目指して行ってきた研究成果の一つです。

今後の展望

翅と翅の連続相同構造の違いが生じる分子メカニズムを明らかにしたいです。

これから研究をする人へ

生物を観察することにより、様々な興味深い現象に出会うことができます。自分の目でじっくり観察して、不思議に満ちた生物の世界を堪能して下さい。

参照

研究成果情報
新美輝幸助教情報
これまでの研究成果
新規の生物農薬"飛べないテントウムシ"を世界で初めて作出
特許情報
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