緑藻の体内時計の時刻合わせ

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  • 2013/08/05

名古屋大学遺伝子実験施設の松尾拓哉助教、石浦正寛名誉教授らの研究グループは、緑藻の体内時計が光を浴びることで時刻を合わせる分子メカニズムを解明しました。1 この研究成果は729日に米科学アカデミー紀要 (PNAS)オンライン速報版に掲載されました。

松尾助教らは、2008年にクラミドモナス(単細胞の緑藻の一種)を用いて緑藻の体内時計の働きに関する時計遺伝子を世界で初めて特定しました。一方、緑藻の体内時計も人間と同じように光を浴びることで時間が調節されることが知られていましたが、それがどのような分子メカニズムで起こるのかは謎のままでした。

研究チームはクラミドモナスの時計遺伝子の1つであるROC15と蛍の発光遺伝子(ルシフェラーゼ)を組み合わせた融合遺伝子を作製し、クラミドモナスに組み込みました。この融合遺伝子からは、時計タンパク質ROC15とルシフェラーゼタンパク質が繋がった融合タンパク質がつくられます。このタンパク質の働きにより、クラミドモナスは融合タンパク質の量に応じた強さで光ります。したがって、発光の強さ(発光量)を観測することで融合タンパク質の量(=時計タンパク質の量)を知ることができます。研究チームはこれを新開発の発光測定装置で観測しました。その結果、外からの光を浴びた直後から細胞が放つ発光量が急速に減少することを発見しました。このことからクラミドモナスが光を浴びるとROC15が急速に分解されることが分かりました。また、ヨーロッパへ飛行機で行ったときと同じような時差ぼけをクラミドモナスに与える実験を行ったところ、ROC15を持たないクラミドモナスは、時差ぼけからなかなか回復出来ないことが分かりました。これらのことから、クラミドモナスが光を浴びるとROC15が急速に分解されて、それにより体内時計の時刻合わせが起こることが分かりました。緑藻は油などのバイオ燃料を作ります。将来的には、バイオ燃料を抽出するときに体内時計を操って細胞を最も活動する状態にすることによって、効率的にバイオ燃料を得ることが可能になるかもしれません。

1. JST先端計測分析技術・機器開発プログラムの一環。

松尾拓哉助教

私たちは朝起きて夜寝る規則正しい"リズム"で生活しています。クラミドモナスのような単細胞生物にも生活のリズムがあるのです。クラミドモナスは日が昇ると光合成をするために日当たりの良いところへ"出勤"します。夜には必要な栄養素が豊富な場所へ移動(帰宅?)し、休みます。小さな単細胞生物がどうやって規則正しい生活をしているのか知りたいと思ってこの研究を始めました。

今後の展望

時計遺伝子がどうやって細胞の中で起こる様々な現象をコントロールしているのか調べていきたいと思っています。また、今回、光によって体内時計が調節される仕組みが分かったのですが、どうやって光を受容しているのかは解っていません。今後はその点も調べていきたいと思っています。

これから研究をする人へ

研究をやっていると、まだ世界中の誰も知らない事実を知ることがあります。そのときの感動は格別です。一度味わってみませんか?







参考

研究成果情報
松尾拓哉助教情報

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