人の目と脳に迫る -培養細胞の画像診断プログラム-

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  • 2013/05/23

名古屋大学の加藤竜司准教授(大学院創薬科学研究科)、名古屋工業大学、東京医科学研究所、株式会社ニコン等の研究チーム(※1)は、細胞を破壊することなく定量的に評価し、品質を事前に予測できるコンピュータ・診断プログラムを開発しました。この技術により、これまで破壊的に一部分しか評価することができなかった細胞の品質は、細胞を壊すことなく毎日全品検査できることが示されました。この技術は、医師や培養作業者が多大な労力と費用を要していた治療用細胞の培養を、画像撮影をするだけで自動化する装置開発にも利用されつつあります。

再生医療では、患者さん自身のわずかな細胞を体外で長期間培養する工程を必要とします。長期間の細胞培養によって細胞は治療に充分な数や活性を有するようになりますが、その品質管理はとても難しく再生医療実用化の大きなハードルとされてきていました。これまで細胞研究は遺伝子検査や染色などの破壊的な細胞評価によって支えられてきていましたが、再生医療は評価した細胞をその後の治療に使うという特殊なケースであるため、慣れ親しんだ従来の方法では満足に評価できないというジレンマがありました。このため、再生医療を提供する多くの施設では、医師など培養熟練者の高度な目利きに頼って、毎日の細胞をチェックし、成功率を見極めてきていました。しかし、これには後継者育成の難しさや休日の無い労働条件などの人的な課題や、定量性や効率性において限界がありました。このため、これらの作業を機械化し、安定かつ安全な培養を自動化する技術が近年に盛んに開発されつつあります。しかし、細胞培養の作業をロボット化する装置開発は進められてきていましたが、それを制御するブレーンとなるコンピュータ・プログラムはほぼありませんでした。

研究チームは細胞研究者・統計研究者・医師・装置メーカーなどの異分野融合研究を推進し、培養熟練者の「目」と「脳」のテクノロジー化を行いました。まずチームは、熟練者が画像中の細胞をどう見分けているかを検証し、画像中の細胞の形を正確に自動数値化するプログラムを開発しました。次に、熟練者が観察の記憶と、実験の成功・失敗例などの経験データをつなぎ合わせる考え方をプログラミングし、人間の判断を超える定量性を持った細胞画像診断プログラムの開発に成功しました。結果、毎日観察を続けて感じる細胞の変化は、たった数日の画像情報の解析で検出することができ、数週間後に培養が成功するかまで正確に予測できることがわかりました。この結果、細胞培養を装置が自動判断できるようになる可能性を示すと共に、熟練者以上に正確に「細胞が最も活性の高い最適な治療日」を医師に進言することができるようになりました。今後は、再生医療における治療細胞をつくる工程をより安全で経済的なものにできるよう、この成果を解析ソフトや自動培養装置として応用すること目指しています。

※1:NEDOの若手グラント(産業技術研究助成事業)の一環。

加藤竜司准教授

加藤竜司准教授は、細胞と生体分子に関連した生物情報を創薬スクリーニングや再生医療支援技術として応用する研究を行っています。医療や創薬の科学に興味を持ちながら、大学発の工学的なモノづくりへの応用開発を目指しており、医工連携や産学共同研究を積極的に進めています。

今後の展望を一言

"創薬や再生医療は、今後少子高齢化社会を迎える日本で大事な分野だと思います。この分野の成果がより多くの方の手に届くような応用研究に今後も挑戦したいと思います。"

これから研究をする人へ

"どんな人と出会ってきたかが、新しいことにトライするためにも、何か大きな仕事に挑戦しようとするにも、とても大事になると思います。研究者に限らず、どんな良い先生・良い先輩に出会うかは、大きく人生を変えます。ぜひ恐れず、たくさんの人に出会いにでかけてみてください。"

参考

研究成果情報
加藤竜司准教授情報

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