太陽風が地球を守る:太陽圏の3次元構造の正確なモデル化に成功

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  • 2014/04/14

名古屋大学太陽地球環境研究所の徳丸宗利教授を中心とした国際研究グループは、太陽風の長期観測データにより太陽圏の3次元構造を精密にシミュレーションすることに成功しました。この研究成果は2月24日付でGeophysical Research Lettersに掲載されました。

太陽から吹き出る太陽風は、銀河から流れ込む恒星間ガスや有害な銀河宇宙線をブロックし、太陽圏を作り出しています。太陽圏と太陽圏外の境界はヘリオポーズと呼ばれ、この領域では恒星間ガスと太陽風が衝突し、激しい乱れが発生しています(図1参照)。ヘリオポーズは2つの水流がぶつかる境界に似ており、太陽風の吹き方によって刻々とその姿を変えます。現在太陽風は観測史上例を見ないほど弱まっており、通常より多くの銀河宇宙線が地球に降り注ぐことが懸念されています。太陽風の流れを知り、太陽圏の構造を正確に理解することは、宇宙環境の変化やそれに伴う地球への影響を予測するために重要です。

名古屋大学太陽地球研究所は長期にわたり太陽風を観測し、太陽圏研究を世界的にリードしてきました。今回徳丸教授の研究グループは、この太陽風データを用いて太陽全球から吹き出す太陽風の様子と太陽圏構造の精密なシミュレーションに成功しました。図3で見られるように、このシステムは太陽風の吹き方やそれに伴う太陽圏の複雑な構造変化を忠実に再現することができます。これまでVoyager探査機[1] から得られたデータにより、ヘリオポーズの揺らぎや恒星間ガスと太陽風が作り出す波の存在が知られてきましたが、本研究は初めてシミュレーションでその姿を正確にとらえました。このシミュレーションを用いてヘリオポーズの変化を予測すれば、Voyager2がいつ太陽圏外に突入するかを正確にわりだすことができるかもしれません。この研究成果は宇宙天気予報の改善や太陽圏の境界域に関する研究に貢献すると期待されています。

[1] NASAによって打ち上げられた無人惑星探査機。1977年に打ち上げられ、1号機は2012年に太陽圏外に達したことが確認された。2号機は2013年現在太陽圏内にあるが、いつ太陽圏を脱出するかが世界中で注目されている。

徳丸宗利教授

徳丸宗利教授は東北大学大学院在学中に木星電波の観測に取り組み、卒業後は郵政省電波研究所(現 情報通信研究機構NICT)に入所しました。宇宙天気予報プロジェクトに携わる中で、太陽風研究の重要性を実感したそうです。独自の観測を通じて太陽風の謎や宇宙環境への影響を研究したいと思い、世界で唯一太陽風を長期観測してきた名古屋大学に着任しました。現在名古屋大学太陽地球環境研究所で、物理学的に宇宙の知識を探究するだけではなく、我々の生活に直結する人間の活動領域としての宇宙を研究しています。

今後の展望

Voyager1が太陽圏を脱出し恒星間ガスの中に踏み込んだことで、これまで知られなかった事実が次々と明らかになり、新たな謎も生まれました。これと並行して過去100年来の特異な太陽活動が進行中という、今は太陽圏の研究において画期的かつ面白い時代です。この絶好の機会に、日本発の観測データで国際的な太陽圏研究に貢献してゆきたいと思います。

これから研究を始める人へ

小学生の頃、アポロ11号による有人月面探査に刺激されて宇宙に関心を持つようになり、大学で太陽地球系物理学を学びました。現在その分野の研究を行っていますが、ここに至るまでには異なる分野で仕事をしています。当時は将来こんな風になろうとは想像していませんでした。その紆余曲折で得た技術・知識は現在の研究に多いに役立っています。皆さんも、いろいろな経験を通じて幅広く学んでいってください。

参考

研究成果情報

名古屋大学プレスリリース
Geophysical Research Letters

徳丸宗利教授情報

名古屋大学教員データベース
名古屋大学宇宙地球環境研究所(太陽地球環境研究所より改組)
太陽風研究室

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