本能行動の謎に迫る:レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えに関わる神経細胞を解明

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  • 2014/06/02


名古屋大学環境医学研究所の山中章弘教授を中心とした研究グループは、レム睡眠とノンレム睡眠の切り替えに関わる神経細胞の働きを解明し、人為的にレム睡眠を引き起こすことに成功しました。この研究成果は5月14日付でThe Journal of Neuroscienceに掲載されました。これまで身近であってもほとんど理解されていなかった睡眠など本能行動への理解を深める研究として、広く注目を集めています。

ヒトの睡眠には頭も体も休んでいるノンレム睡眠と、頭は活動し、体は休んでいるレム睡眠の2種類があります。睡眠は必ずノンレム睡眠から始まり、レム睡眠へと切り替わります。これまでこの切り替えがどのようなメカニズムで行われているかはわかっておらず、どちらの睡眠状態にあるかを特定することも難しいため、特にレム睡眠についての研究はほとんど進んでいませんでした。

山中教授の研究グループは、これまで食欲を増幅させる分子と考えられていたメラニン凝縮ホルモン(MCH)を作る神経細胞(MCH神経)に着目し、光を当てた時にこの神経が活性化するマウス、不活性になるマウス、死滅するマウスをそれぞれ作成しました。マウスの状態を観察したところ、MCH神経を活性化したマウスのレム睡眠の割合は3倍に増えたこと、不活性化したマウスの睡眠には変化が見られないこと、同神経が死滅したマウスは睡眠時間が減少したことがわかりました。したがって、MCH神経は睡眠に重要な神経であり、ノンレム睡眠とレム睡眠の両方の制御に関わっていることがわかりました。MCH神経の存在する視床下部には本能行動を調節する神経が集まっており、食欲、性欲、睡眠欲などそれぞれの欲求は複雑に絡んでいます。山中教授の研究は、今後様々な本能行動のメカニズムを解明し、薬物中毒や精神病の治療、記憶の固定など様々な分野に貢献することが広く期待されています。

山中章弘教授

山中章弘教授は睡眠欲や食欲など、本能に関わる神経機構の研究をしています。大学院博士課程までは心臓など循環器系の働きを研究していましたが、所属していた研究室で摂食行動に関わる神経ペプチド「オレキシン」が発見されたことをきっかけに、身近な現象を神経から考える研究を始めました。光遺伝学の手法を取り入れた視床下部の研究により、摂食障害や精神病、薬物中毒の緩和や記憶の向上など、私たちの生活に密接に関わる重要問題の解決に貢献しています。

今後の展望

意識があり行動している動物の脳の中でどのような神経がどのように活動し、その行動発現に繋がっているのかよく分かっていません。光で狙った神経の活動を操作できる光遺伝学を用いて研究をすすめ、生存や種の維持に不可欠な本能行動を調節する神経の謎に迫っていきたいと思います。

これから研究を始める人へ

脳は脳を理解出来るのか?今まさに脳科学者の脳に突きつけられている問題です。是非皆さん自身の脳にもこの問題に興味を持ってもらい、脳の仕組みを解明する試み(研究)に加わって頂ければと思います。お待ちしております。

参考

研究成果情報

名古屋大学プレスリリース
The Journal of Neuroscience

山中章弘教授情報

名古屋大学教員データベース
山中教授 研究室

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