植物の成長を絶妙に制御するメカニズムを解明

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  • 2014/06/04

名古屋大学生物機能開発利用研究センターの上口美弥子准教授、吉田英樹さん(博士課程1年)を中心とした研究グループは、植物ホルモン「ジベレリン」のシグナル伝達を調節し、植物の成長を制御するメカニズムを解明しました。この研究成果は5月12日付でPNASオンライン版に掲載されました。

ジベレリン(GA)は葉や茎の伸長や発芽、果実の肥大促進など様々な生理現象に関わる植物ホルモンです。GAが増えると植物は背が高くなり、減ると低くなります。これまで植物の細胞内でGAを抑制するDELLAタンパク質が、同時に何らかの仲介役を介してGA促進因子の調節領域と結合し、GA促進因子を増やすことで植物の伸長を制御していることがわかっていましたが、その仲介役の正体と調節メカニズムは解明されていませんでした。

上口准教授の研究グループはこの仲介役を突き止めるため、1500種類のタンパク質とDELLAタンパク質、GA促進因子の調節領域との結合を検証しました。その結果、IDDと呼ばれるタンパク質がDELLAと調節領域を仲介していることがわかりました。さらに同グループは、DELLAの働きでGAが少なくなりすぎた時にはDELLAがIDDを介して調節領域と結合し、合成酵素や受容体、SCL3などのGA促進因子を増やすこと、そしてその結果GA促進因子が増えてGAが増えすぎると、今度は促進因子の一つであるSCL3がIDDを介して調節領域と結合し、GA促進因子を抑制してGAを減らすことを発見しました。このように、DELLAとSCL3はGAシグナル伝達の促進・抑制を同時に微調節することで、植物の全体的な生育バランスを保っていることがわかりました。このような微調節メカニズムは動物においては報告されていましたが、植物では初めて発見されました。このメカニズムを人為的にコントロールすることができれば、農作物の成長を操ることが可能になるかもしれません。この研究成果は、今後有用植物の増産や植物のシグナル伝達に関する研究の発展に貢献することが期待されています。

上口美弥子准教授

上口美弥子准教授は幼少時より生物に親しみ、研究者になることを夢見ていました。顕微鏡で花粉や蝶の鱗粉、プランクトンを観察したり、押入れを暗室にして植物の実験を行ったりしていたそうです。仮説を立ててそれを証明する要素を探し、知識をつなげていくことに研究の醍醐味を感じています。現在名古屋大学生物機能開発利用研究センターで、植物ホルモン「ジベレリン」のシグナル伝達の全容を解明することを目指して研究を続けています。

今後の展望

ジベレリンは、植物の伸長に重要な植物ホルモンです。そのジベレリンがどのように受け取られるのかについて長年研究してきました。今後は、植物が伸びるという事象に直に焦点を当て、植物伸長や細胞伸長にジベレリンがどのように関わるのかを理解したいと考えています。そのことは、今後ますます重要になってくると考えられる『植物によるバイオマス生産』という観点においても、貴重な知見を与えてくれるものと考えています。

これから研究を始める人へ

好きな事があれば、何でもよいので調べたり実験したりしてみてください。そして、研究者になりたいと思った人は、臆する事なくトライしてみてください。生物の中でおきている事象がどのような仕組みに依るのかを考え、実験を通して実証し、仮説が確かめられた時は何にも代え難く楽しいものです。研究の多くの時間は辛く苦労の多いものですが、その瞬間、瞬間の楽しさのために研究が続けられるのだと思っています。

参考

研究成果情報

名古屋大学プレスリリース
PNAS

上口美弥子准教授情報

名古屋大学教員データベース
有用農業形質保存分野

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