レーザーが切り開くPM2.5対策: リアルタイムPM2.5測定装置が環境問題解決に貢献

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  • 2014/07/25

1.今回開発されたリアルタイムPM2.5測定装置

名古屋大学 太陽地球環境研究所の松見豊教授、秀森丈寛博士研究員を中心とした研究グループは、リアルタイムで大気中のPM2.5の化学成分を解析できる装置を開発し、含有する有害成分の起源を特定しました。この研究成果は5月4日付でAtmospheric Environmentに掲載されました。

近年PM2.5など大気中の微粒子(エアロゾル)による健康被害が懸念されており、様々な研究機関からPM2.5の飛来予測や注意喚起情報が提供されています。しかし現在提供されている情報はPM2.5の重量のみであり、実際にその微粒子が人体に有害な化学成分を含んでいるかを反映してはいません。既存の技術では含有成分分析のために1日がかりでPM2.5をフィルターで採取し、実験室で分析する必要があるため、有害成分量を含んだリアルタイムの情報提供は難しいと考えられてきました。

松見教授らの研究グループはこの問題を解決するため、PM2.5の採取から解析までの一連の工程を短時間で実現できる装置を開発しました(図1)。この測定装置は採取した微粒子にレーザーをぶつけてイオン化させ、そのイオンの重さをはかることで化学成分を特定することができます。さらに研究グループは含有成分がどのように排出されたかを特定するため、実験室で石炭を燃焼させて発生したPM2.5を同装置で測定し、含有成分とその質量を割り出しました。この結果を踏まえて日本列島の風上に位置する東シナ海上の離島でPM2.5を観測したところ、太平洋から気団が日本上空に流れ込んだときにはPM2.5中に有害物質がほとんど含まれない一方で、アジア大陸から気団が流れ込んだときには鉛が急増していることがわかりました。このとき大気中の多くのPM2.5は先の実験で割り出された石炭由来のPM2.5と同じ組成を持っていたことから、その発生源は石炭燃焼であると推定されます。PM2.5の発生源や由来を科学的に証明した今回の研究成果は、今後排出源規制の枠組みを作る際に科学的根拠として用いられる可能性があります。また、今後はこの装置を用いてより健康への影響に留意した注意喚起情報を提供することが期待されています。

松見豊教授

松見豊教授は理化学研究所、民間企業、財団法人、大学で研鑚を積み、大気環境変動メカニズムの解明や大気が関わる環境問題の解決を目指して研究してきました。化学反応がどうやって起こるのか、分子と分子をぶつけたり、生成物をレーザー分光で反応させたりする物理化学の研究を行っていましたが、より実用的な面で化学反応が重要な大気化学に興味を持ち、オゾン層の破壊反応を研究するうちにこの分野の専門家になったそうです。現在名古屋大学太陽地球環境研究所の所長を務め、地球環境や人類社会の将来を考えながら研究を続けています。

今後の展望

PM2.5については、現在は大気中に含まれる微粒子の重さのみが基準になって注意喚起情報が出されていますが、今後は、微粒子に含まれる化学的な成分を素早く測定して有害成分に関する情報を提供することができるような測定装置で、かつ比較的軽量で操作しやすいものの開発を進めて行こうと考えています。

これから研究を始める人へ

アジアの発展と共に環境問題はますます重要になってきています。一つの国だけでは解決できない、国をまたがった環境問題も起きています。これまで勉強してきた科学の知識をもとに、地球温暖化やPM2.5などの地球環境問題の解明と解決、すなわち、将来の私たちの地球を住みやすくする研究に私たちと共に進めて行きましょう。

秀森丈寛博士研究員

秀森丈寛博士研究員は僧侶としての務めと研究を両立するユニークな研究者です。修士課程修了後に3年間お寺の修行で自給自足の托鉢生活を送りましたが、修行を終えると研究をしたいと強く希望するようになり、博士課程に進学しました。博士課程在学中にGCOEプログラム「地球から地球たちへ―声明を宿す惑星の総合化学-」(東京工業大学)に参加し、大気化学に興味を持つようになったそうです。現在名古屋大学太陽地球環境研究所で博士研究員として研究をしながら、大気中の微粒子観測を通して環境問題の解決にも貢献しています。

今後の展望

現在、PM2.5は大変注目され化学成分分析の必要性はますます高まっています。一方で、我々の装置をはじめ化学分析のための装置の利用範囲は科学研究領域にとどまり、社会に貢献するためにはもっと低価格で扱いやすい装置が必要です。そのためにはまだまだいくつかののブレークスルーが必要だと思います。そして、この壁を自身の手でブレークスルーしていけたらと思っています。

これから研究を始める人へ

私は少し普通の人とは異なる経験を積み、人より遅く研究の道へ進んできました。最初は、人より遅れることに抵抗を感じましたが、結果としていろんな意味でそれも悪くなかったなと思っています。研究に限らず自分のしたいことは、いつはじめても遅いことはありません。人生一度きりでなるようにしかなりません、今の研究をはじめもう3年になりますが、つぎはどんな新しいことにチャレンジしようか画策しすることが今の楽しみです。

参考

研究成果情報

名古屋大学プレスリリース
Atmospheric Environment

名古屋大学宇宙地球環境研究所(太陽地球環境研究所より改組)

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