日本数学コンクール委員会設立趣意書 (1990年9月)

日本数学コンクール委員会 (Japan Mathematical Concours Commission) 設立趣意書

最近の日本の産業・経済発展は目覚ましく、世界の注目するところであり、新世紀に向けて更に一層の発展と世界への貢献を考えるとき、理数科学を含む諸科学や高度技術の進歩に必要な数学や数学的思考力の育成が必要であろう。

一方我が国の現状を見るに、進路の分かれ道である高校は、優れた数学教育のカリキュラムを目指しながら、大学入試などに圧迫されて、そのことが必ずしもうまく機能しているとはいい難い。平生からゆっくり考えさせるなど、大学入試などの改善も考えられるが、一律にそうするには種々の困難があろう。そこで、数学教育にも多様化や個性化が必要になってくる。

今年京都で開催されたInternational Congress of Mathematiciansで日本の数学者森重文教授がフィールズ賞を受賞したこと、International Mathematical Olympiadに日本が初参加したことは意義深い。優秀な生徒を見つけるばかりでなく励まし、数学の問題解決力をさらに伸ばすことは、コンクールに参加した多数の生徒などの数学教育に役立つものと我々は考える。

世界には。国内選抜を始め地域別選抜や、それらと直接関係のない数学コンテストなど種々の数学コンクールが競い合っている国も少ない。しかし日本には。上記国際コンクールの国内選抜が今年開催された以外に、高校生を含む全国展開の数学コンクールは無かった。

そこで我々は下記のような特徴を持った時間的にも解法的にも自由なコンクールを目指して、下記委員を含め40余名の大学・高校教員で日本数学コンクール委員会を発足させることになった。
平成2年(1990年)から新たに“日本数学コンクール”を開催する意義と特色をあげる。

1.若い才能の発見

日本の高等数学教育の内容に沿うものであるが、解法的には自由なコンクールで多方面の才能を調べる。これによって、21世紀の新しい科学・技術の基盤を担っていく夢とロマンを秘めた若い人材を発掘していきたいと考えている。

2.数学的才能の発展

数学的才能には、通常の試験で試される決められた範囲の技巧で決められた時間内に与えられた問題を解くというものの外に、もっと本質的なものがあるように思われる。それはこれらの技巧自身を自ら作り出し、それによってその問題を含む一つの分野を開拓していく力であろう。これを試すために、時間にあまり制限を設けずに、多面的に本当に考える問題を与える。

3.多彩な才能の評価

優秀な数学的才能を持った生徒や隠れた才能の持ち主に励みを与えるために、各種の賞を設ける。

4.新しい数学の発見

数学的本質に根ざした楽しい問題や、特別訓練しない中学生にも意味が分かる問題なども含めるため、高校数学のカリキュラムには必ずしもとらわれない。一般の批判を受け、それに耐える数学コンクールにするため、問題は広く公表する。一般の人にも頭の体操として楽しんでいただきたいと考えている。

5.参考書などの持ち込み可

参考書、ノートなど持ち込み自由のコンクールであり、弁当・コーヒーもかなり白由に飲食できる。

平成2年(1990年)9月8日日本数学コンクール委員会(以下委員名略)